CBAM適用免除へ EU・英国が排出量取引制度(ETS)連結交渉開始を決定

村山 大翔

村山 大翔

「CBAM適用免除へ EU・英国が排出量取引制度(ETS)連結交渉開始を決定」のアイキャッチ画像

欧州連合理事会(Council of the EU)は11月13日、英国との間で温室効果ガス排出量取引制度(ETS)を連結させるための交渉開始を正式に承認した。この連結が実現すれば、両圏で取引される製品は、互いの炭素国境調整メカニズム(CBAM)の適用を相互に免除される資格を得る見込みであり、カーボンリーケージ(炭素漏出)の回避と公正な競争環境の確保を目指す重要な一歩となる。

デンマークのマリー・ビエレ欧州問題担当大臣は、「合意は企業が直面する負担を大幅に軽減し、消費者に利益をもたらすだろう。交渉が迅速に完了することを期待している」と述べた。

ETS連結がCBAMの相互免除を可能に

今回の理事会決定に基づき、欧州委員会(European Commission)は、英国政府との間でETS連結に関する具体的な交渉を開始する権限を得た。この連結の最大の焦点は、両圏のETSが相互に認められ、その結果として、輸入製品に炭素価格を課すCBAMの適用が相互に免除される点にある。

  • ETS連結の目的
    排出枠の取引を円滑化し、共通の持続可能性目標に貢献するとともに、両当事者間のカーボンリーケージを防ぐ。
  • CBAM免除
    連結が実現すれば、両圏の製品は、それぞれの法的な要件を満たした場合に限り、相互のCBAM(EUおよび英国が独自に導入する炭素国境調整メカニズム)から免除される資格を得る。
  • 対象セクター
    ETSの連結協定は、電力・産業熱供給、産業、国内・国際航空および海上輸送といったセクターを網羅的にカバーする予定で、将来的なセクター追加のプロセスも確立される見通しである。

ETSの連結に関する議論は、2025年5月19日に開催されたEU・英国サミットと、その後に合意された共通理解(Common Understanding)を受けたものである。この共通理解において、ETS連結が関連する法的要件を満たせば、製品が相互のCBAMの適用免除資格を得ることを認めている。

今後のスケジュールと背景

欧州委員会は近く英国との交渉を開始し、交渉が完了した後、合意内容は発効前に理事会によって承認される必要がある。

今回の決定には、ETS連結に加え、衛生植物検疫分野(SPS)に関する協定交渉の開始も含まれており、これは英国とEU間の農産物貿易における検査や証明書の負担軽減を目的としている。特にSPS協定は、ウィンザー枠組み(Windsor Framework)を通じて、グレートブリテンと北アイルランド間の移動にも利益が適用されるとされている。

欧州連合理事会は、この決定を通じて、英国ETSとEU ETSという、世界で最も重要な排出量取引市場の二つが、実質的に単一の市場として機能する可能性を示した。これにより、企業はより広範な排出枠市場での取引機会を得るとともに、炭素価格の国際的な整合性が向上することが期待される。

EUと英国の排出量取引制度は、それぞれが大幅な排出削減目標を達成するための主要な政策ツールであり、その連結はグローバルな気候変動対策における重要な進展となる。交渉の進捗と最終合意の期限が次なる注目点となる。