ドイツ下院がCO2回収・貯留インフラ整備法案を可決 「産業界から歓迎の声」も環境団体は批判的

村山 大翔

村山 大翔

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ドイツ連邦議会(下院)は11月7日、二酸化炭素回収・貯留(CCS)技術の本格導入に向けた法的枠組みを承認した。2045年の気候中立化を目指す政府戦略の中核をなす政策として、産業部門の脱炭素化を後押しする狙いだ。法案は今後、連邦参議院(上院)の審議を経て正式に成立する見通しである。

今回の法案は、商業規模でのCO2貯留サイトの開発を可能にし、産業排出源から回収したCO2を輸送するパイプライン網の整備計画を進める内容を含む。セメント、石灰、アルミニウムといった工程由来の排出削減が難しい産業を対象に、CCSを活用した「プロセス炭素除去」の基盤を整えるものだ。

賛成派は、再生可能エネルギーや電化だけでは排出ゼロが困難な産業部門で、CCSが「実質的な脱炭素化の切り札」になると強調する。デンマークやノルウェーでは既に海底下でのCO2貯留プロジェクトが稼働しており、ドイツはこれら北欧モデルを参考に国内制度を整備する構えだ。

一方、環境団体からは強い反発が広がっている。グリーンピース・ドイツ(Greenpeace)や環境・自然保護連盟(BUND)は「CCSは依然として高コストかつ限定的な技術であり、化石燃料への依存を長引かせる」と批判した。さらに、安全性や費用負担、政府および民間資金が他の気候対策から転用される懸念も指摘している。

法案では石炭火力発電所でのCCS利用を禁止する一方、ガス火力発電での活用を容認している。この点について批判派は「化石燃料依存の温存につながる」としてさらなる制限を求めている。

ドイツ政府は2025年9月に発表した「10項目気候・産業競争力計画」の一環として、CCSおよびCO2回収・利用(CCU)技術の研究開発を支援する方針を明示している。経済省によると、今後は北海沖を中心に貯留適地を特定し、2030年代前半の実用化を目指す。

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欧州ではデンマークの「Greensand」計画やノルウェーの「Northern Lights」プロジェクトなど、越境的なCO2輸送・貯留網の構築が進行中である。ドイツもこの「欧州CCS回廊」への参加を視野に入れ、自国産業の競争力確保と炭素除去(CDR)市場形成を同時に狙う。

産業界からは概ね歓迎の声が上がっており、化学大手BASFや鉄鋼メーカーなどは「排出削減コストの合理化と炭素クレジットの創出につながる」と評価している。CCSを通じたCO2削減量は、将来的にEU域内排出量取引制度(EU ETS)やボランタリーカーボンクレジット市場(VCM)における価値源泉となる可能性が高い。

一方で、環境団体は「技術偏重が再エネ拡大や省エネ投資の遅れを招く」として、今後の法制化過程での修正を求めている。法案の最終採決は年内にも予定されており、ドイツの気候政策は「排出削減」から「除去・貯留」の段階へと大きく転換する節目を迎える。

参考:https://www.cleanenergywire.org/news/dispatch-germany-november-25