旭化成は、森林由来のJ-クレジットの創出を支援するデジタルシステムを開発し、宮崎県延岡市での実証実験において申請業務量を約90%削減することに成功した。これにより、森林由来のカーボンクレジットの取得に必要だった煩雑な手続きが大幅に効率化され、森林保全と地域経済循環の両立を可能にする新たなモデルが実現した。
森林クレジットの創出をデジタル化 1.5~3カ月の作業を5日に短縮
森林由来J-クレジットは、適切な森林管理によるCO2吸収量を「環境価値」として認証し、排出権として取引できる仕組みである。カーボンクレジット販売益は森林管理費用に再投資されるが、従来は申請手続きの複雑さと専門性の高さが普及の障壁となっていた。
旭化成は、延岡市や延岡地区森林組合などと組成した「森林由来J-クレジット推進協議会」と連携し、これらの課題解決を目的にデータ管理と自動化の技術を応用。都道府県・市町村・森林組合が保有する地図情報や森林簿データを統合することで、吸収量算定から書類作成までの工程を自動化した。結果、従来1.5〜3カ月を要した業務が約4〜5日で完了可能となった。
延岡市では本システム導入により、申請作業の9割削減を実現。これにより専門知識のない自治体職員でも申請を進められるようになり、低コストでのクレジット創出体制を確立した。
「限られた人員でも創出可能な体制に」 現場と企業双方に波及効果
延岡市農林水産部林務課の赤木課長は、「専門知識が不要になり、手順通りに操作するだけで正確な書類を作成できるようになった。職員の負担軽減と体制整備につながる」と評価した。
旭化成の松崎修・常務執行役員(研究・開発本部長)は、「温室効果ガス削減に向けた多角的アプローチの一環であり、当社の技術を生かした新たな挑戦だ」と述べた。
森林を「環境資産」として循環 延岡市で地域経済モデルを構築
延岡市では本年10月1日から、同市の市有林で創出した森林クレジットを市内外企業向けに販売開始。2025年度に1,804トンCO2、2040年度までの16年間で合計34,370トンCO2相当の創出を見込む。
クレジット購入者には、森林保全エリアや効果を可視化する「森林環境貢献ストーリー」や認定証を発行。企業は限定ロゴを商品やサービスに掲出し、企業版ふるさと納税によるイベントのカーボンオフセットにも活用できる。旭化成は今後、同システムを宮崎県内外の自治体や企業に展開し、自社のカーボンニュートラル活動にも応用する方針だ。
本取り組みは、森林を環境資産として価値化し、CO2吸収・防災・経済循環を同時に促す「地方発の脱炭素DXモデル」として注目されている。
参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000219.000079452.html