SBTi、「企業向けネットゼロ基準V2」第2次改訂案を公表 科学的整合性と実効性を強化へ

村山 大翔

村山 大翔

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企業の気候行動を科学的根拠に基づいて推進する国際組織、サイエンス・ベースド・ターゲット・イニシアチブ(Science Based Targets initiative, SBTi)は6日、企業の脱炭素行動を規定する旗艦枠組み「コーポレート・ネットゼロ・スタンダード(Corporate Net-Zero Standard)」の第2次改訂案を公表し、12月8日まで一般からの意見募集(パブリック・コンサルテーション)を開始した。今回の改訂案は、初回の意見募集や専門家ワーキンググループから得たフィードバックを反映し、科学的整合性を維持しながらも、明確性・実効性・適用容易性の向上を図ったものだ。

科学的根拠に基づく企業行動を加速

改訂案は、企業が科学的な根拠に基づく気候目標をより容易に設定・実施できるよう、包括的かつ柔軟な構造へと刷新された。SBTiは本基準を通じて、企業がカーボンバリューチェーン全体で脱炭素化を進めるとともに、早期かつ自主的な排出削減への取り組みを促すことを狙う。

主な改訂点は以下の通りである。

  • ネットゼロ」を北極星(指針)とする設計:企業は長期的な気候目標に整合した短期行動をとり、移行計画を公表することが求められる。
  • スコープ別の目標設定アプローチScope1,2に個別要件を設け、各分野の実情に即した削減策を明確化。
  • 企業文脈に応じた柔軟な選択肢:異なる業種・地域の事情に応じて、最も大きな削減効果を生む領域を優先的に対処できるよう設計。
  • 継続排出への自主的責任を評価:直接的な排出削減を主軸としつつ、残存排出の影響に自主的に対応する企業を評価・認定する新制度を導入。
  • 透明性の強化:進捗の測定・開示方法を明確化し、説明責任と継続的改善を促進。

SBTiによれば、この改訂案は「企業が科学的根拠に基づく気候目標を現実の行動へと転換することを支援する」ことを目的としている。

「企業が世界の脱炭素を牽引」

SBTiの最高経営責任者(CEO)、デイビッド・ケネディ氏は次のように述べた。
「企業は世界的な脱炭素化を主導しており、科学的根拠に基づく行動は、排出削減と移行リスクの管理の両面で競争力を維持する鍵である。今回のパブリック・コンサルテーションを通じ、企業行動を“野心から実行へ、実行から成果へ”と進化させる基準を共に形づくりたい」と語った。

同イニシアチブの最高技術責任者(CTO)、アルベルト・カリーヨ・ピネダ氏も「本改訂案は、より包括的で実践的、かつ多様な企業に適応可能な科学的基準を目指すものだ。最終版の完成に向け、世界中の企業と専門家からの意見が不可欠である」と強調した。

CDRクレジット市場への波及

今回の改訂案では、企業が直接削減を優先する姿勢を維持しつつも、残存排出の影響を軽減する自発的行動を評価する仕組みが導入された。この点は、炭素除去(CDR)技術や高品質なカーボンクレジットの活用を後押しする可能性がある。SBTiは過去にも「オフセットの濫用を避けつつ、科学的に妥当な除去手段を支援する」との立場を示しており、今後の企業戦略と市場設計に影響を及ぼすとみられる。

SBTiは12月8日までに集めた意見を反映し、2026年前半をめどに最終版を発表する見通しだ。

参考:https://sciencebasedtargets.org/news/sbti-releases-second-draft-corporate-net-zero-standard-v2-for-consultation