Holcim 東欧初の大規模CCS事業がEUイノベーション基金に採択 2032年に「ゼロに近いセメント」量産へ

村山 大翔

村山 大翔

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スイス建材大手ホルシム(Holcim)のルーマニア法人が推進する炭素回収・貯留(CCS)プロジェクト「カーボン・ハブCPT01(Carbon Hub CPT01)」が、欧州連合(EU)のイノベーション基金から支援対象として正式に選定された。東欧地域で初の大規模陸上CCS事業として、同国の脱炭素インフラ整備の基盤を築く計画である。

プロジェクトはアルジェシュ県のセメントおよび石灰製造拠点から排出されるCO2を分離・回収し、専用パイプラインを通じて陸上貯留サイトに輸送、恒久的に地中固定する。詳細な助成額は明らかにされていないが、ホルシムは「自社技術とエンジニアリング力の成熟度がEUに認められた」とコメントしている。開発はベルギーの鉱業大手カルムーズ(Carmeuse)を含む産業コンソーシアムが担い、同社はCCSバリューチェーン構築に関する専門知見を提供する。

2032年に年産200万トンの「脱炭素セメント」実現へ

カーボン・ハブCPT01は2032年の稼働を目指しており、年間約200万トンの「ゼロに近いセメント」を生産する計画だ。これはホルシムが掲げる「ネクストジェン・グロース2030(NextGen Growth 2030)」戦略の中核を成すもので、東欧域内の低炭素建材普及を加速させる狙いがある。

中・東欧地域統括責任者のサイモン・クローネンベルク氏は「今回のEUイノベーション基金の支援は、当社チームの技術的成熟度と、価値連鎖全体に及ぶ先進的パートナーシップの成果を証明するものだ」と述べた。

今回の採択は、欧州委員会が発表した総額29億ユーロ(約4,600億円)規模のイノベーション基金支援策の一環で、CO2輸送・貯留を含む61件のネットゼロ技術プロジェクトが選定されたもの。欧州委員会は同事業を「ルーマニア初のフルチェーンCCSインフラ構築に向けた基礎的プロジェクト」と位置付けており、新たなCO2輸送パイプラインと地質貯留サイトの改修が進められる。

将来的には、欧州全域で計画中の「トランス・ヨーロピアンCO2輸送ネットワーク」にも統合される見通しである。

EU内で最大規模のCCUSポートフォリオを形成

ホルシムは今回のルーマニア案件を含め、欧州全域で8件の大規模な炭素回収・利用・貯留(CCUS)プロジェクトを保有しており、業界最多のEU支援実績を持つ。これらはドイツのレーガードルフ、ポーランドのクヤヴィ、ベルギーのオブルグ、フランスのル・テイユとマルトル、クロアチアのコロマチノ、ギリシャのミラキ、そして今回のルーマニア・カンプルングに分布している。

同社は2024年の売上高162億スイスフラン(約2兆8,600億円)を計上し、持続可能な建設資材の世界的リーダーとして、インフラから住宅建築までの包括的ソリューションを提供している。

ルーマニア政府は今回の事業を契機に、CCS関連の制度整備と雇用創出を進める方針であり、域内の低炭素産業クラスター形成が注目される。

参考:https://www.holcim.com/media/media-releases/eu-innovation-fund-carbon-hub-romania