カナダ政府は、石油・ガス部門に課す予定だった排出量上限を撤廃し、代わりに産業向けのカーボンプライシング制度の強化と炭素回収・貯留(CCS)技術の導入を進める方針を示した。これはマーク・カーニー首相による初の予算案の一部として4日に公表されたもので、政府は「こうした条件下では排出上限はもはや必要ない」と説明している。
同案は、自由党政権の環境重視路線から後退したとの批判を受けているカーニー首相にとって、経済再建と気候政策の両立を図る試金石となる。
政府は同時に、投資家の信頼を高めるため、全国的なカーボンプライシング制度の枠組みを強化する方針も示した。連邦のカーボンプライシングを、基準を満たさない州にも適用する「汎カナダ協定」を提案し、制度の一元化を目指す。
アルバータ州では産業向けカーボンプライシングが凍結されており、サスカチュワン州では同制度が適用されていない。カーニー政権はこうした地域間の格差を是正する考えを明らかにした。
アルバータ州ビジネス協議会の主任エコノミスト、マイク・ホールデン氏は「産業向けカーボンプライシングの強化と排出上限の二者択一であれば、前者の方が受け入れられる」と述べ、「上限案は業界で“普遍的に不評”だった」と指摘した。
政府はまた、前政権下で成立した「グリーンウォッシング対策法」の改正を予告した。同法は投資家の不確実性を生んだとして、石油企業などから批判を受けていた。
今回の予算案には、カナダの6大オイルサンド企業によるCDR共同事業「パスウェイズ・アライアンス」の総額160億カナダドル(約1兆8,000億円)規模のCCS計画も盛り込まれた。政府は同計画を「国家的に変革をもたらす可能性がある」と評価し、CCS投資に対する税額控除の適用期限を5年間延長する方針を示した。
カナダの排出上限は法制化されておらず、2030年からの施行予定だったが、産業界の強い反発を受けて見直しが進められていた。今回の政策転換は、政府がカーボンプライシングとCCSを軸とした「市場メカニズム型の排出削減政策」へ移行することを意味する。