国連がパリ協定市場で初の方法論を承認 「埋立地メタン」削減を対象にカーボンクレジット化

村山 大翔

村山 大翔

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国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の監督機関は10月30日、パリ協定のカーボンクレジット制度「第6条4項(Article 6.4)」で初となる新方法論を採択した。対象は埋立地からのメタン排出で、具体的な算定・カーボンクレジット化の手順を初めてパリ協定に整合する形で示した。これにより同仕組みは実運用段階に入り、当該方法論を用いた活動の登録申請が可能になった。

方法論は、メタン回収・管理による排出削減を定量化し、ベースラインを「パリ整合」に合わせて時間とともに厳格化する「下方調整」を導入する。単純な燃焼(フレアリング)はカーボンクレジット化水準の低下を速め、発電などエネルギー利用は緩やかにする設計である。優れた解決策を優遇し、持続性の低い慣行の固定化を避ける狙いだ。

同時に、監督機関は投資分析ツールも採択した。開発者に対し、カーボンクレジット収入がなければ事業が成立しないことを示す「追加性」の実証を求めるものだ。これにより「通常どおりでは起きない」削減だけがカーボンクレジット化される担保が強化される。

2025年の主要決定として、ベースライン設定とリーケージ評価に関する新基準、貯留型プロジェクトの気候利益の「逆転」を防ぐリバーサル基準、基礎的ニーズに乏しい地域のプロジェクトを支える基準も整備された。カーボンクレジットの実在性・完全性・衡平性を高める基盤整備が進んだ形だ。

「これは昨年採択した方法論標準を現実に適用する最初の一歩だ。信頼できる削減を求める世界の期待に応え、今後も革新的な方法論を続けたい」と第6条4項監督機関の議長、マーティン・ヘッション氏は述べた。「埋立地メタンから始めることで、パリ協定に整合した市場が実社会の解決策をもたらすことを示す」と強調した。

メタンは短期的な温暖化効果が高く、埋立地での回収・利用は即効性のある対策とされる。今回の「下方調整」設計は、カーボンクレジットに依存した長期的なフレア継続を避けつつ、エネルギー回収など高付加価値のソリューションを後押しする。日本の二国間クレジット制度(JCM)や自治体の埋立処理事業とも親和性が高く、将来の国際移転の枠組み整合に資する可能性がある。

今後は再生可能エネルギーなど他のプロジェクト型に関する方法論の策定が見込まれる。監督機関はCOP30で年次報告書を締約国に提出し、追加的な権限付与や市場ルールの指針に関する整理が進む見通しだ。次の焦点は、方法論の拡充と、第6.4レジストリの運用詳細、第三者検証機関の認定プロセスである。

今回の承認で、パリ協定下の国連カーボンクレジット市場は形式段階から実装段階へと移行した。埋立地メタンは先陣を切ったが、貯留依存型の炭素除去(CDR)ではリバーサル基準の実装が鍵となる。COP30までに、方法論パイプラインと追加性審査の運用実績がどこまで積み上がるかが試金石となる。

参考:https://unfccc.int/news/un-body-agrees-first-methodology-under-paris-agreement-carbon-market