「新規コミットメントが急増」 N4Cが最新動向を公表 ラテンアメリカ偏重と「先住民・地域住民の参画」拡大、実装ギャップは継続

村山 大翔

村山 大翔

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10月28日、ネイチャー・フォー・クライメート(Nature4Climate、N4C)は最新の「コミットメント・トラッカー」更新版を公表した。COP29以降に発表された自然関連の新規コミットメントは26件と、直前期の5件から420%増。一方、発表から6か月超の案件で進捗を公表したのは50%にとどまり、実装・報告のギャップは依然残る。新規案件の54%が先住民・地域住民(IP&LC)の参画を明記し、活動地域は35%がラテンアメリカに集中するなど、資金・実装の焦点が変化している。

N4Cは2019年以降の自然関連コミットメント180件を追跡している。最新更新では、COP29以降の新規26件が加わり、地政学的逆風のなかでも共同行動の再加速が示された。N4Cの議長ルーシー・アルモンド(Lucy Almond)氏は「地政学の動揺にもかかわらず、自然関連の進捗報告の低下は軽微で、新規コミットメントは増加した」と述べ、分散的な実装構造と比較的低コスト、企業も含む広い関与層を要因に挙げたと指摘した。

注目のイニシアチブとして、ブラジル森林再生・バイオエコノミー金融連合(Brazil Restoration and Bioeconomy Finance Coalition)がある。同連合は2030年までに100億ドル(約1.53兆円)の動員目標の約半分をすでに達成したとされる。為替は1ドル=約153円で換算した。
トロピカル・フォレスト・フォーエバー・ファシリティ(Tropical Forest Forever Facility)はブラジルが議長国を務めるCOP30の看板構想として、森林保全の長期資金供給の仕組みを狙う。ハイ・インテグリティ森林投資イニシアチブ(High Integrity Forest Investment Initiative)はバンク・オブ・アメリカ、中央アフリカ森林イニシアチブ、グッド・エナジーズ、UBSオプティマス財団などから資金・運用支援を確保した。

もっとも、実装・透明性の課題は根強い。公表から6か月超の案件で進捗報告があるのは50%と、前回更新(52%)から低下した。米国政府支援の見直しや各国の対外気候資金の圧縮が要因の一部とみられる。一方で、新規コミットメントのうち6か月以上経過した案件では62%が進捗を公表しており、設計段階で説明責任を組み込む傾向が強まる。COP30ハイレベル・クライメート・チャンピオンでイオシュピ・マクシオン会長のダン・イオシュピ(Dan Ioschpe)氏は「実装は今後もCOPの中心課題であり、明確な目的と継続的関与を軸にした運用設計が生産性を高める」と述べた。

今回の「IP&LC参画の明文化」の拡大(全体では24%、新規では54%)は、高品位な自然系クレジット(REDD+や管轄域アプローチ等)の正当性・耐久性・便益配分の改善に直結する。意思決定と利益配分への組み込みは、追加性の担保、リーケージ抑制、恒久性リスクの低減に資する。これは、品質基準(コア・カーボン原則等)に合致するクレジット供給の拡充に寄与し、企業の移行計画で求められる高インテグリティ調達を後押しする。

ラテンアメリカ偏重(新規の35%)は、ブラジルやアマゾン流域での大規模再生・保全(自然由来CDR)の案件パイプライン拡大を示し、市場には長期ボリュームの期待が生じる。他方で、進捗未報告50%という現実は、与信・価格形成・供給実現性に対するディスカウント要因となる。MRVの早期公開、第三者検証、里程標(マイルストーン)連動型の資金拠出など、実装に紐づく資金設計が不可欠である。

日本企業はサプライチェーン源流の森林リスク対応と移行計画におけるクレジット活用を同時に迫られる。COP30(ベレン)発のファシリティや連合への参画は、J-クレジット/ボランタリー市場の高品位調達、および第6条協力の将来枠組みとの整合を図る上で有効である。為替・カントリーリスクを織り込んだ成果連動型コミットメント、IP&LCの自由意思に基づく事前の情報同意(FPIC)の実装、生物多様性便益の共通指標化が、調達の品質とレピュテーションの両面で鍵となる。

N4Cの追跡対象では、グローバル/複数地域の取り組みが約57%と依然主流だが、新規はラテンアメリカへの傾斜が顕著だ。ブラジル議長国は「新規発表より実装重視」を掲げており、COP30までに資金の着地・MRVの公開・IP&LCの便益設計をどこまで進められるかが次の焦点となる。

新規は増加、品質要件は強化、報告は遅滞というのが現状である。市場の信認を維持するには、期日を切った進捗公開と第三者検証の標準化が不可欠だ。COP30までの各四半期で、資金拠出の実行率とMRV公開件数を主要KPIとして追うべきである。

参考:https://nature4climate.org/nature-commitment-tracker-a-surge-in-new-commitments-and-signs-of-change/