EU「3%まで途上国カーボンクレジット活用を認める」 2040年90%削減目標案を正式発表

村山 大翔

村山 大翔

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欧州連合(EU)欧州委員会は7月2日、温室効果ガス排出量(GHG)を1990年比で2040年までに90%削減する目標案を正式発表したと複数メディアが報じた。加盟国の反発を受けて、途上国でのカーボンクレジット購入を通じて最大3%分の削減目標達成を認める柔軟性を初めて導入する方針だ。欧州議会と加盟国の承認が必要で、9月18日の採決を目指す。

欧州委員会は2040年目標について、EU域内での削減努力のみを前提とした従来方針を転換し、国連のパリ協定第6条に基づく国際カーボンクレジットを活用可能とする新方針を打ち出した。加盟27カ国は2036年以降、途上国での森林保全や再エネ事業を通じて創出されたカーボンクレジットを購入し、その分を自国の排出削減実績に充当可能になる。

EUのGHG排出量は既に1990年比で37%削減されたが、2040年目標達成には重工業の大幅な削減が必要となるため、イタリアやチェコなどが柔軟性、つまりカーボンクレジットの容認を要求。フランスのマクロン大統領も「産業の脱炭素化への保証が必要」として即時の合意に慎重姿勢を示していた。

これに対し、EU気候担当委員のヴォプケ・フークストラ氏は「大部分は域内で削減するが、最後の数ポイントは柔軟性を持たせることが賢明だ」と述べ、途上国カーボンクレジット活用は「制度改善だ」と強調した。

今回認められる国際カーボンクレジット活用は最大3%分で、ドイツの連立政権協定での要請とも整合する水準だ。一方、戦略的視点から3%を超える柔軟性を求める声も加盟国から上がっており、今後の調整が焦点となる。

これに対し、カーボンクレジットに批判的な立場を取る環境NGOカーボン・マーケット・ウォッチのサム・ヴァン・デン・プラス政策ディレクターは「カーボンクレジット活用の抜け穴は欧州の気候行動の遅れを助長するだけだ」と批判した。さらに「欧州域内での脱炭素投資を国外に逃す恐れがある」との懸念も広がっている。

科学的には、2040年に90%削減はパリ協定の1.5度目標と整合するとされるが、EU科学諮問委員会はさらに5%上積みした95%削減を勧告していた。諮問委員会は「EUは2050年以降にカーボンネガティブを目指し、域外の排出削減も支援すべき」との立場だ。

欧州委員会はこの目標を9月の国連気候変動枠組条約(COP30、ブラジル・ベレン)までに正式採択し、2035年目標と併せて国連に提出することを目指す。フークストラ委員は「経済、安全保障、地政学の理由からクリーントランジションを進める」と述べ、域内排出量取引制度(EU-ETS)へのCO2除去の統合や加盟国間の削減・吸収目標の柔軟運用拡大にも言及した。

日本も2030年までに1億トンCO2、2040年までに2億トンCO2のオフセット購入を目指しており、今回のEUの方針は世界のカーボンクレジット市場に大きな影響を与える可能性がある。制度設計次第では、国際カーボンクレジット市場の信頼性向上とCDR(炭素除去)資金の流動化を促す一方、実効性を欠けば域内の直接削減投資を阻害するリスクも孕む。

今後、EU環境相会合が7月中旬にデンマークで開催され、加盟国間の調整が本格化する。欧州委員会のテレサ・リベラ副委員長は「柔軟性は安全網だが、コミットメントは揺るがない」と述べ、9月18日の採決を前に各国の歩み寄りを促す考えを示した。