IETAは、カーボンクレジットマーケットにおけるデジタル変革の方向性を示すポジションペーパーを公表した。これまで手作業やアナログ工程に依存していたカーボンクレジットマーケットに、デジタル化・標準化・AIという3本柱で抜本的な変革をもたらすことを目指す内容となっている。
市場の課題とデジタル変革の必要性
IETAの報告書では、これまでの市場が「遅い」「高コスト」「小規模」「断片的」といった構造的課題に直面してきたとし、これを克服する手段としてデジタル技術の導入が鍵を握ると強調されている。特に、プロジェクト設計からクレジット発行、取引、最終的なリタイアメントまでのバリューチェーン全体において、データの一貫性と可視性の向上が求められる。
デジタル化で効率性と正確性を両立
最も優先されるのが「デジタル化」である。PDF形式の手動文書からデジタルメソドロジーへの移行、MRV(計測・報告・検証)の自動化、プラットフォームベースでのデータやり取りの促進などが提案されている。これにより、プロジェクトの評価・承認からクレジット発行までの期間短縮や、スケーラブルな実装が可能となる。
標準化、相互運用性と市場透明性のカギ
続いて「標準化」が進めば、クレジット発行や取引に伴うデータの整合性が保たれ、複数のクレジットプログラム間での相互運用性が高まる。IETAはこの点で、Climate Action Data Trust(CAD Trust)やCarbon Data Open Protocolのような国際的取り組みの拡大を提唱。これにより、今後急速に増加するデータ量を効率的に処理するための基盤が整うという。
AI:スケーリングと信頼性向上のエンジン
三つ目の柱がAIの活用。プロジェクト評価や価格予測、ポリシー分析といった分析的機能に加え、地球観測データを活用したCO2吸収量の計算、森林変化の検知、プロジェクトのベースライン評価など、生成系AIや機械学習が炭素除去の精度とコスト効率を飛躍的に向上させることが期待されている。AIが実質的にデータ処理と意思決定の中核を担う未来も見据えている。
IETAは「今こそ市場参加者全体の協調と技術革新への投資が必要だ」と訴えており、脱炭素経済におけるカーボンクレジットマーケットの役割を根本から再定義する試みとして注目が集まっている。
参照:https://www.ieta.org/resources/papers/the-digital-transformation-of-carbon-markets/