EnergyAustralia、カーボンニュートラル表示でグリーンウォッシング訴訟に直面

村山 大翔

村山 大翔

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気候団体が「Go Neutral」製品に誤解を招く表現があったと主張、企業責任の前例となる可能性も

2025年5月、オーストラリア連邦裁判所で、EnergyAustraliaに対するグリーンウォッシング訴訟の審理が開始された。原告は気候変動対策を訴える市民団体「Parents for Climate」。同社が提供していた「Go Neutral」プログラムを通じて、約40万人の顧客に誤解を与えるカーボンニュートラル表示を行ったとし、オーストラリア消費者法(ACL)違反であると主張している。

本件は、オーストラリアで初めてカーボンニュートラルマーケティングに対して提起された法的措置であり、エネルギー小売事業者に対するグリーンウォッシング訴訟も初の事例となる。判決によっては、今後の企業広告・サステナビリティ表示の規制強化にも影響を与える可能性がある。

カーボンオフセットで「排出ゼロ」を謳う表現が争点に

エナジーオーストラリアは2016年より、契約時に無料で選択できる「Go Neutral」プログラムを提供。顧客の電気・ガス使用に伴う温室効果ガス排出を、同社がカーボンクレジット購入でオフセットすることで「カーボンニュートラルになる」と説明していた。

原告側はこれを「誤解を与える、または欺瞞的な行為」だと主張。特に、同社が購入したクレジットの大半が「排出回避系(avoidance credits)」で、実際には大気中からCO2を「除去」していない点を問題視している。

訴訟の中心には、「カーボンクレジットは温室効果ガス(GHG)を根本的に削減したとは言えないのに、それをもって排出ゼロと謳うのは誤認を招く」という構図がある。

認証制度「Climate Active」や制度の限界も浮き彫りに

EnergyAustraliaは、オーストラリア政府の自主認証制度「Climate Active」に参加しており、排出量とオフセット購入実績を報告し、カーボンニュートラル認証を受けていた。ただし、この制度の信頼性にも批判が集まっている。

Parents for Climateのニック・セットンCEOは、「Climate Activeでは品質の低いオフセットでも認証が得られてしまう」と指摘し、「企業がカーボンニュートラルという言葉を、あたかも免罪符のように使っている」と非難している。

2023年には、豪州競争・消費者委員会(ACCC)が環境表示に関する原則を公表したが、あくまで“指針”にとどまっており、法的拘束力のある規制はない。欧州連合が導入した「グリーンクレーム指令」と比較しても、対応は遅れているという声がある。

企業責任と制度改革の試金石に

EnergyAustraliaは「Go Neutral」プログラムの新規受付を既に停止しており、今後既存顧客への提供も段階的に終了するとしている。訴訟については、誤解を与える意図はなかったとしつつも、「協力的に解決を目指す」との姿勢を見せている。

Parents for Climateは、裁判所に対してエナジーオーストラリアによるグリーンウォッシングの認定と、顧客向けの訂正通知の発出を求めている。公判は8日間の予定で、判決は後日下される見通しだ。

今回のケースは、今後のグリーンマーケティングの信頼性や、企業の環境主張に対する審査体制の強化に道を開く可能性がある。消費者の環境的善意を利用した商業戦略が、どこまで許容されるのかが問われる裁判となる。