ドイツ、EU気候目標に国際カーボンクレジット容認で方針転換、気候科学者は反発

村山 大翔

村山 大翔

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欧州委員会の気候担当委員ヴォプケ・フークストラ氏が、2040年のEU気候目標に国際カーボンクレジットの活用を盛り込むよう、ドイツの連立政権を水面下で説得していたと、POLITICOが2日に報じた。EU全体の議論が軟化方向へと傾きつつあり、気候科学者からは「気候政策の信頼性を損なう」との厳しい批判が相次いでいる。

ドイツが2040年目標に「カーボンクレジット活用」を明記

欧州委員会は当初、2040年までに温室効果ガス排出量を1990年比で90%削減する方針を掲げていた。しかし、各国政府の抵抗を受け、正式な提案は7月2日まで延期中。その裏側で、フークストラ氏はドイツ・キリスト教民主同盟(CDU)や社会民主党(SPD)との連立協議に介入し、国外カーボンクレジットの活用を含めた形での90%目標を受け入れるよう働きかけていた。

結果、4月に公表されたドイツの連立合意には「国外での高品質かつ永続的な削減分を最大3ポイントまで活用可」との文言が盛り込まれた。これは、90%削減のうち最大3%を他国でのカーボンクレジット購入で代替可能とする内容であり、EU議論のベースラインとなっている。

気候科学者は「国内削減こそ本筋」と警鐘

一方、EU気候変動科学諮問委員会は6月2日、60ページに及ぶ報告書で、こうした方針に強く反対する立場を表明。「2040年目標はEU域内での削減で達成すべき」とし、「国際カーボンクレジットで代替するのは政策の信頼性と競争力を損なう」と警鐘を鳴らした。

委員長のオトマー・エーデンホーファー氏は、「われわれの勧告する90~95%削減は国内実施が前提であり、例外はない」と明言。国際クレジットの活用は「残余排出への補完的手段」にとどめるべきだと強調している。

国際カーボンクレジット活用のリスクと課題

国際カーボンクレジットは、先進国が発展途上国の排出削減事業を資金的に支援し、その成果を自国の排出実績に加算できる制度。コスト効率の高さが魅力とされる一方で、過去には検証不十分な案件や不正取引が問題となってきた。

昨年には国連主導の新たな認証枠組みが合意され、信頼性向上が期待されるが、EUの科学諮問委は「国外での透明性確保は極めて難しく、制度的リスクが大きい」と評価している。

今後のEU提案(7月2日予定)と、それに対する加盟国や議会の反応が、今後の市場と制度設計の鍵を握る。

参考:https://www.politico.eu/article/eu-climate-chief-wopke-hoekstra-germany-2040-climate-target-carbon-credits/