航空業界、ネットゼロ目標とSAF導入に依然として大きな課題感 IATA年次総会

村山 大翔

村山 大翔

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航空業界は世界的な気候変動対策の一環として、2050年までに温室効果ガス(GHG)の実質排出量ゼロ(ネットゼロ)を目指す取り組みを進めています。特に、持続可能な航空燃料(SAF)は脱炭素化の鍵とされていますが、価格や供給体制の課題が浮き彫りになっています。

本コラムでは、2025年6月にインド・ニューデリーで開催された国際航空運送協会(IATA)の年次総会の内容をもとに、SAFをめぐる航空業界の現状と課題を整理し、ネットゼロ目標達成に向けた次の一手を考察します。

SAF供給の現状と価格の課題

IATAの発表によると、2025年のSAF供給量は200万トン(航空燃料全体の0.7%)と予測されていますが、その供給量でさえ全世界の燃料費に44億ドルの追加負担をもたらすとされています。

また、特に欧州ではSAF供給義務化により、従来燃料の5倍の価格になっており、1トンあたりの市場価格に加えて17億ドルのコンプライアンスコストが加算される状況です。

政策の未整備と市場の歪み

SAF導入を後押しするための政策や補助金は各国でばらつきがあり、結果として市場ではSAF供給者側に不透明な価格設定が横行しています。

IATAは、こうした義務化政策が市場成熟前に導入されたことが、コストの上昇と普及の遅れを招いていると指摘しています。特に欧州のSAF義務化は「脱炭素化コストを高騰させる逆効果」と厳しく批判されました。

グローバルなSAF市場形成に向けた取り組み

IATAはSAFの導入を促進するため、「SAFレジストリ」および「SAFマッチメーカー」の2つの新制度を紹介しました。これにより、購入・使用・排出削減の追跡を標準化し、国際制度(CORSIAやEU排出量取引制度)への準拠を支援します。

今後の政策対応とインドの役割

SAFの安定供給と価格安定化には、再生可能エネルギーへの政策的支援が不可欠です。特にインドは、国際便向けのSAF混合率を2028年までに2%に設定し、固定価格制度や技術基準整備に向けた動きを進めています。IATAはインド政府や関連業界と連携し、グローバルなベストプラクティスの導入を目指す方針を示しました。

本コラムは、インドのニューデリーで開催されたIATA年次総会におけるSAF導入の議論をもとに、航空業界の脱炭素化への現状と課題を整理しました。

航空会社はネットゼロ目標を堅持していますが、SAFの供給体制整備や価格抑制に向けたグローバルな政策協調が急務です。

今後は、インドのような新興国の主導による制度整備やインフラ投資が、グローバルな航空脱炭素の鍵を握ることになるでしょう。

参考:https://www.iata.org/en/pressroom/