VCMとEnowa、2030年までに3,000万トンの高品質カーボンクレジットを確保 サウジ発ボランタリーカーボンクレジット市場の変革力

村山 大翔

村山 大翔

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サウジアラビア公共投資基金(PIF)とサウジ・タダウル・グループが設立したVoluntary Carbon Market Company(VCM)と、未来都市NEOMのエネルギー・水部門であるEnowaは、2030年までに累計3,000万トンの高純度カーボンクレジットを供給する長期契約を締結しました(2025年6月16日公表)。本コラムでは、この契約が持つ戦略的意義と、ボランタリーカーボンクレジット市場(VCM)の成長シナリオを整理し、日本企業が取るべき次のアクションを考察します。

サマリー

  • 長期オフテイク契約:年間約300万tCO2のクレジット供給で、発展途上国プロジェクトへ資金と確実性を提供。
  • 市場インフラの高度化:VCMは2024年11月、サウジ初の取引所を開設。オークション、RFQ、ブロック取引に続き、2025年にはスポット市場を予定。
  • 需要サイドの加速:NEOMは100%再生可能エネルギー化を掲げ、避けられない排出を高品質カーボンクレジットで相殺。
  • グローバルVCMの拡大:MSCIはVCMの市場規模が2050年に450〜2,500億ドルへ拡大すると試算。

中東で加速するボランタリーカーボンクレジット市場

ボランタリーカーボンクレジット市場は、企業が自主的に排出量をオフセットするためのクレジットを売買する場です。これまで欧米が主戦場でしたが、サウジアラビアは「中東版グリーンファイナンスハブ」を目指し、2022年以降、世界最大級のオークションを開催してきました。その中核を担うVCMが今回、Enowaと複数年契約を結んだことで、一過性の取引から安定的な市場への転換点を迎えています。

長期オフテイク契約が解決する3つの課題

1. プロジェクト資金の確実性

南半球を中心とする気候変動プロジェクトは、価格変動と買い手不足という二重の不確実性に晒されています。年間300万tCO2規模の需要を10年間ロックインする本契約は、開発者にキャッシュフローの予見性を与え、植林や再生可能エネルギーの拡大を後押しします。

2. 信頼性(インテグリティ)の担保

VCM取引所は国際レジストリと連携し、コアカーボン減速(CCPs)に準拠したクレジットのみを上場。さらに、イスラム金融との整合を図る仕組みを備え、MENA地域の投資家が参加しやすい環境を整えています。

3. 価格・調達リスクの低減

スポット市場中心のVCMでは、価格が数ドルから数十ドルまで変動します。長期契約は価格帯を事前に合意することでコスト見通しを安定化させ、買い手・売り手双方のリスクを低減します。

まとめ

本コラムでは、VCMとEnowaが締結した3,000万トン規模の長期炭素クレジット契約を取り上げ、そのインパクトと日本企業への示唆を整理しました。長期オフテイク契約は、VCM市場に流動性と信頼性をもたらし、発展途上国プロジェクトの資金調達を安定化させます。

参考:https://vcm.sa/en/media-detail/vcm-and-enowa-target-delivery-of-more-than-million-tonnes-of-carbon-credits/