ユタ大学、「カーボンクレジット制度の抜本改革」を提唱 森林吸収量の過大評価に警鐘

村山 大翔

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大気中の二酸化炭素(CO2)削減策として注目される「自然を活用した気候変動対策(Nature-based Climate Solutions)」の有効性をめぐり、米ユタ大学の研究チームが制度設計の抜本的見直しを訴えている。研究成果は10月17日付の英科学誌『ネイチャー(Nature)』に掲載された。

ユタ大学ウィルクス気候科学・政策センター(Wilkes Center for Climate Science and Policy)のウィリアム・アンダーレッグ所長は、「自然の力を活かすことができれば、森林は気候変動の緩和に大きな役割を果たす可能性がある」と述べた上で、現行のカーボンクレジット制度が「過度に単純化され、科学的根拠に欠けている」と警告した。

アンダーレッグ氏によると、森林は確かに年間数十億トン規模のCO2を吸収できるが、その冷却効果は一面的ではない。たとえば「暗色の針葉樹を大規模に植林すれば、黒いアスファルトのように太陽光を吸収し、むしろ地表の温度を上昇させる恐れがある」と指摘する。

さらに、森林を利用したカーボンクレジットには「貯留期間」の問題がある。木々はCO2を固定化するが、火災や病害、伐採などで短期間のうちに再放出されるリスクが高い。アンダーレッグ氏は「地球温暖化は数十年で解決する問題ではなく、除去された炭素は少なくとも数百年単位で維持されなければならない」と強調した。

研究の共同執筆者であるユタ大学の気候政策専門家リビー・ブランチャード氏は、もう一つの課題として「リーケージ(漏出)」を挙げる。「ある森林を保護すると、木材供給の需給バランスが変化し、伐採業者が他地域で代替供給を探すことになります。その結果、保護地域外で排出量が増加する可能性があります」と述べた。

ブランチャード氏は結論として、「森林を気候緩和策として活用することは有効だが、それだけでは不十分だ。化石燃料の排出削減を同時に、かつ迅速に進めなければならない」と訴えた。

今回の研究は、森林を利用したカーボンクレジットの科学的根拠と市場設計の乖離を改めて浮き彫りにした。日本でも今後、J-クレジット制度や自治体単位の植林型プロジェクトを展開する際、貯留期間やリーケージを含む「炭素恒久性」の評価手法を再検討する必要がありそうだ。

参考:https://www.upr.org/science/2025-10-17/university-of-utah-researchers-want-to-reform-carbon-credits