Microsoft 岩石強化風化の「UNDO」と3度目のCO2除去契約 Inlandsisが新たな金融枠組みで支援

村山 大翔

村山 大翔

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米マイクロソフト(Microsoft)は10月21日、英炭素除去企業UNDOとの間で、28,900トンの恒久的CO2除去を2036年までに実施する新たな契約を締結したと発表した。資金面では、カナダの気候金融基金インランシス(Inlandsis、運用=フォンダクション・アセット・マネジメント〈Fondaction Asset Management〉)が開発した革新的なデットファイナンス(債務型資金調達)スキームが支える。

これにより、両社の累計契約量は49,000トンに達した。マイクロソフトが強化風化(ERW)による炭素除去(CDR)手法を中核的アプローチと位置付けていることを改めて示す内容となった。

UNDOの創業者兼CEOジム・マン氏は、「革新的な金融こそがギガトンスケールのCDRを実現する触媒だ。インランシスの支援は、炭素除去をスケーラブルで取引可能な『資産クラス』へ変える後押しになる」と述べた。

インランシスにとってもこの契約は節目となる。マネージングディレクターのデイビッド・モファット氏は「ERWプロジェクトへの初投資であり、第2号基金としても初のカナダ案件だ。カーボンファイナンスをカナダから世界へ拡大させる重要な一歩」と強調した。

同基金のファイナンス構造は、プロジェクトの実施進捗に応じて資金が供給・返済される仕組みで、成果確認と発行済みクレジットを結びつける「実証連動型モデル」となっている。

マイクロソフトのカーボンリムーバルポートフォリオ・ディレクター、フィリップ・グッドマン氏は「強化風化はギガトンスケール除去への有望な道筋だ。UNDOの科学的厳密性への取り組みが、クレジットの恒久性と信頼性を支えている」とコメントした。

UNDOは2023年にマイクロソフトとの初契約(5,000トン)、2024年に第2契約(15,000トン)を締結しており、今回の契約は過去最大規模となる。契約ごとに科学研究支援も拡大しており、ERW分野の計測・報告・検証(MRV)手法の確立に貢献している。

今回のプロジェクトでは、カナダ・オンタリオ州を中心に約9万トンのウォラストナイト岩を散布し、3万エーカー(約1.2万ヘクタール)の農地で実施される予定だ。ERWは、シリケート鉱物を地表に撒くことで雨水中のCO2と反応させ、地質スケールで炭素を固定化する自然過程を加速させる技術である。

作業は農業スケジュールに合わせて実施され、GPS追跡や土壌・間隙水サンプルの分析により、採掘からクレジット発行までのエビデンスチェーンを可視化する。全工程で温室効果ガス排出を控除した「純除去量」が計上され、発行は実測データに基づく。

本契約は、英国の保険会社CFCによるデリスク(リスク軽減)支援も受ける。CFCは炭素市場の取引を保険的に下支えする専門機関であり、金融機関や投資家が安心して長期除去案件に資金を供給できる仕組みを整えている。

UNDOは英航空大手ブリティッシュ・エアウェイズや金融機関バークレイズ、マクラーレンなど、複数の大手企業と連携しており、今回の枠組みは「実証に基づく拡大可能なCDRファイナンスモデル」として業界注目を集めている。

マイクロソフトは2030年までに「カーボンネガティブ」を達成する目標を掲げており、ERWを含む複数の炭素除去技術をポートフォリオ化している。今回の契約は、科学的厳密性と金融革新を両輪とするCDR市場の成熟化を象徴するものだ。

参考:https://un-do.com/resources/blog/undo-and-microsoft-to-remove-28900-tonnes-of-carbon-backed-by-financing-from-inlandsis/