炭素除去(CDR)技術を手がけるシロナ・テクノロジーズ(Sirona Technologies)は10月中旬、オマーンとアラブ首長国連邦(UAE)にまたがる新拠点「プロジェクト・モリンガ(Project Moringa)」で、初の直接空気回収(DAC)ユニットを稼働させたと発表した。同社にとって中東地域で初のDAC・貯留プロジェクトとなる。
この拠点では、大気中の二酸化炭素(CO2)をモジュール式DAC装置で直接回収し、地下での鉱物化反応(インシチュ・ミネラリゼーション)によって恒久的に貯留する。初期段階では年間300トンのCO2を除去できる能力を持ち、2026年までに年間1,800トン規模への拡大を目指す。
プロジェクトの最大の特徴は、豊富な太陽光資源を活用できる地理的条件だ。中東の強力な日射を再生可能電力としてDAC装置に供給することで、エネルギー多消費型とされるDAC運用の脱炭素化を進める。また、現地の技術者ネットワークを活かし、湾岸諸国が「CDRの世界的拠点」として台頭する可能性を示す象徴的プロジェクトと位置づけられている。
シロナによると、今回の初期ユニットは実環境下で自社技術を検証する目的で運転を開始したもので、数か月にわたる高温環境でのハードウェア設置や、紅海経由の短期輸送など厳しい工程を経て実現したという。同社は今後、運用データを活かしてモジュールの追加配備を進め、拡張性を実証する方針だ。
さらに、同社はケニアでも「プロジェクト・ジャカランダ(Project Jacaranda)」を英セルラ(Cella)社と共同で推進しており、玄武岩層へのCO2鉱物固定化を行うDACプロジェクトとして注目を集めている。
シロナは「プロジェクト・モリンガ」を通じ、最初のカーボンクレジットの発行を数週間以内に予定していると述べており、今後の中東地域におけるカーボンクレジット市場形成の試金石となる見通しだ。