Microsoft支援のTerradot、「Sentinel」現地実証を開始 ブラジルでERWの炭素除去効果を全行程で検証

村山 大翔

村山 大翔

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ブラジル・サンパウロ州で10月15日、マイクロソフト(Microsoft)が出資する炭素除去(CDR)スタートアップのテラドット(Terradot)が、新たな実証拠点「センチネル(Sentinel)」を稼働させた。火成岩風化促進(Enhanced Rock Weathering=ERW)による炭素除去の全過程を「土壌から河川まで」科学的に追跡し、実運用下での信頼性を立証する狙いだ。

センチネルは、農地での商業規模ERW施用と同時に、地中から地表水までの炭素の移動を追跡する包括的な観測網を構築する。現場には地下水観測井、土壌センサー、表流水観測所を設置し、さらに岩盤層までの土壌コアを採取。炭素がどのように土壌・帯水層・河川を通過しながら保持されるかを定量的に把握する。

テラドットは、2026〜2029年にかけてマイクロソフトへ1万2,000トン分のERW由来カーボンクレジットを供給する契約を締結済み。同社はこの資金提供をもとに、ERWの「計測優先アプローチ」を実証する体制を整えた。マイクロソフトは資金だけでなく技術的支援も行い、ERWの科学的基盤強化を後押ししている。

センチネルでは、三つの重点研究テーマを設定している。①農業慣行との相互作用(耕起、施肥、輪作の影響)、②深層土壌と帯水層中の無機炭素挙動、③湧水や河川での脱ガス過程である。これにより、ERWによる炭素固定の「地表から地下水系までの完全な炭素収支」を把握し、クレジットの恒久性評価に科学的根拠を与えることを目指す。

ブラジルは、豊富な再生可能エネルギーと広大な玄武岩資源を有し、ERW実施に最適な条件が整う。テラドットはすでに4,500ヘクタールの農地に10万トン超の玄武岩粉を散布し、10万点以上の土壌サンプルを採取している。これにより、農業生産性の向上と炭素除去を両立させる実装モデルを確立しつつある。

同社は、別拠点「カルカラ(Carcará)」(パラナ州)でもERWプロジェクトを展開しており、2025年第4四半期に初の第三者認証クレジットが発行される見通し。センチネルでの科学的実証と商業案件でのクレジット発行を並行して進めることで、「測定に裏づけられた耐久的CDRモデル」の国際標準化を狙う。

テラドットの最高経営責任者(CEO)は「センチネルはERWの信頼性を高める“生きた研究所”だ。現場データを通じて、より堅牢な炭素クレジット市場を構築する」と述べた。

センチネルの成果は、ERWを「インフラ級CDR技術」として社会実装するための礎となる見込みだ。

参考:https://terradot.earth/news/raising-the-bar-for-durable-carbon-removal