10月10日、炭素除去(CDR)業界向けの透明性向上ツール「TRACEcdr(Transparent Reporting and Certification for CDR)」の新バージョンが公開された。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)のグランサム気候変動環境研究所と英アライド・オフセット(AlliedOffsets)が共同開発したもので、各種の測定・報告・検証(MRV)プロトコルと、それに基づき発行されたカーボンクレジット情報を相互に紐づける機能を強化した。
新たに再設計されたTRACEcdrは、CDR事業の品質保証に不可欠なMRVプロトコルを体系的に整理し、発行済みのカーボンクレジットと直接リンクさせることで、市場の透明性を高めることを目的としている。データはアライド・オフセットによって毎週更新され、各プロトコルの発行クレジット数や関連プロジェクトの状況がリアルタイムで可視化される。
今回の更新では、プロトコルのライフサイクル特性に関する分析機能が追加された。具体的には、「帰属型(アトリビューショナル)」か「結果型(コンセクエンシャル)」かといった会計手法の違いや、境界設定、ベースライン、追加性、恒久性、リーケージなどの要素を比較できる。これにより、利用者はプロトコル間の設計思想や炭素会計上の前提をより明確に把握できるようになった。
TRACEcdrの「ネットワーク・ビジュアライザー」では、IPCCの分類に基づき、CDR手法をクラスタ化して表示。ユーザーは手法別や開発団体別にMRVプロトコルを探索でき、各ノードの大きさは関連カーボンクレジット発行量を示す。発行データが存在しないプロトコルは形状で区別され、プロジェクト数や発行量などの視点でデータを再構成することも可能だ。
また「プロトコル・エクスプローラー」機能では、MRVプロトコルを表形式で閲覧・抽出でき、特定の国・市場・クレジット種別などで絞り込み検索も行える。視覚的なダッシュボードと統計チャートにより、カーボンクレジット市場のMRV構造を体系的に把握することができる。
グランサム研究所とアライド・オフセットは共同声明で「TRACEcdrはCDR市場の信頼性を支える基盤となる。頻繁に登場する新しいMRVプロトコルを一元的に整理することで、企業・投資家・政策立案者が同じ基準でデータを参照できる環境を整えたい」と述べた。
同ツールは、今後も新規プロトコルやカーボンクレジット発行データを継続的に反映させる予定であり、2026年にかけてさらなる機能拡張が計画されている。