シンガポールとモンゴル、パリ協定第6条に基づくカーボンクレジット協定を締結

村山 大翔

村山 大翔

「シンガポールとモンゴル、パリ協定第6条に基づくカーボンクレジット協定を締結」のアイキャッチ画像

シンガポールとモンゴルは10月6日、パリ協定第6条に基づきカーボンクレジット創出と取引に関する実施協定を締結した。これはシンガポールにとって10件目の二国間協定であり、同国の「国際炭素市場ネットワーク」構築戦略の一環となる。署名は、シンガポールのグレース・フー持続可能性・環境相(兼通商関係担当大臣)と、モンゴルのバトバートル・バト環境・気候変動相によって行われ、さらにガン・キムヨン副首相(通商産業相)とウチラル・ニャムオソル第1副首相(経済開発相)も出席した。

今回の協定は、モンゴル国内で実施される温室効果ガス削減プロジェクトから生じるカーボンクレジットを「対応調整済みカーボンクレジット」として相互承認・移転するための法的拘束力を持つ枠組みを定めるものだ。プロジェクト開発者は、この枠組みを通じてパリ協定第6条のルールブックに整合した高品質なカーボンクレジット事業を開発できるようになる。

シンガポール政府は、モンゴルで認可されたカーボンクレジットの収益のうち5%相当を現地の気候変動適応対策に充当する方針を明示。また、発行時に2%分のカーボンクレジットを初回から破棄(キャンセル)し、いかなる国の削減目標にも算入しない「純排出削減」への貢献とする。これにより、両国の協力が「カーボンクレジット取引による地球全体の排出削減」に資する構造を明確化した。

フー環境相は、「シンガポールとモンゴルの国交樹立55周年を、持続可能で低炭素な未来への共同歩みによって記念できることを嬉しく思う」と述べ、「気候行動を実質的に進めるための新たな道筋を開く」と強調した。

一方、バト環境・気候変動相は、「この協定は、人と地球の双方に利益をもたらす新しい国際協力のモデルである」とし、「モンゴルのグリーン開発と世界的なカーボンニュートラル目標の達成に寄与する」と語った。

今回の協力は、シンガポールがこれまで締結してきたパプアニューギニア、ガーナ、ブータン、チリ、ペルー、ルワンダ、パラグアイ、タイ、ベトナムに続く10件目の実施協定である。アジアと中南米、アフリカを跨ぐ広域なパートナーシップ網を形成し、同国のクレジット市場構築に弾みをつける。

協定に基づくプロジェクトは、再生可能エネルギー導入、森林保全、水資源改善などを含み、雇用創出やクリーンエネルギーへのアクセス拡大、地域の環境汚染削減といった具体的な社会的効果も期待されている。

シンガポール政府は今後、カーボンクレジット認可手続きや対象となる認証手法の詳細を順次公表する予定である。両国は2026年以降のプロジェクト認証開始を目指し、実務的な調整を進める見通しだ。

参考:https://www.mti.gov.sg/Newsroom/Press-Releases/2025/10/Singapore-signs-Implementation-Agreement-on-carbon-credits-collaboration-with-Mongolia