米連邦議会は9月26日、バイオエネルギー炭素回収・貯留(BECCS)技術の推進を目的とした新法案「BECCS推進委員会法案(BECCS Advancement Commission Act of 2025)」を提出した。提案者は共和党のブレイク・ムーア下院議員(ユタ州)で、農務省内に「BECCS推進委員会(BECCS Advancement Commission)」を新設し、森林管理、エネルギー供給、地方経済開発を横断する政策提言を行う仕組みを整備する。
法案は、BECCSを「気候変動対策と地方振興の両立を担う新しい基幹技術」と位置づける。委員会には農務省、エネルギー省、内務省土地管理局(BLM)、商業林業団体、州森林局代表、地方自治体、そしてBECCS企業の代表者が参加し、今後1年以内に包括的な報告書を議会に提出することが義務づけられている。
ムーア議員は発表文で「BECCSは森林火災リスクの軽減、農村経済の活性化、そしてAIとデータセンターが急増する中でのベースロード電源供給という、複合的な国家課題の解決策になり得る」と述べた。
BECCSは、森林や農業廃棄物などのバイオマスを燃焼・発電に利用し、発生するCO2を地中に永続貯留する技術である。支持者は、過剰な森林バイオマスを活用することで森林健全性を高めつつ、CDRと再生可能エネルギー供給を同時に実現できると主張する。
アーバー・エナジー(Arbor Energy)の政策担当責任者サットン・グルドナー氏は、「BECCSは最大200ギガワット(GW)のベースロード電力を電力網に追加できる潜在力を持つ。AI時代のエネルギー安定供給を支えるファーミング・パワー(Firming Power)として、農村や森林地域に大きな経済的恩恵をもたらす」と述べた。
一方で、環境団体の間ではBECCSを巡る評価が分かれている。特に、広範なバイオマス伐採が本当にカーボンニュートラルであるのかについては懸念が根強い。森林生態系や生物多様性への影響を危惧する声も上がっている。
また、法案には連邦管理地からのバイオマス調達契約を「効率化」する条項が含まれており、業界側が長年求めてきた政策でもある。この点については、自然保護団体による監視強化が予想される。
欧州では、スウェーデンのストックホルム・エクサージ(Stockholm Exergi)や英国のドラッグス(Drax)発電所などがBECCSの商用化に踏み出している。いずれも炭素価格制度と政府補助を背景に進展しており、すでにカーボンクレジット発行の仕組みが整いつつある。
一方、米国では税額控除(45Qクレジット)中心の支援策にとどまり、投資家にとって長期的な収益確保の見通しが不透明なままだ。今回の法案は、こうした政策の断片化を是正し、BECCSを連邦レベルの戦略として制度化する初の試みと位置づけられる。
ただし、委員会中心のアプローチが欧州のような明確な市場形成につながるかは未知数であり、ワシントンが政治的対立を乗り越えて制度的な安定性を示せるかが今後の焦点となる。
参考:https://www.congress.gov/bill/119th-congress/house-bill/5597/text/ih?overview=closed&format=txt