米ワシントンで世界初の許可取得プロジェクト始動 海洋アルカリ性強化によるCO2除去の実証

村山 大翔

村山 大翔

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米カリフォルニア州拠点のエブ・カーボン(Ebb Carbon)は10月2日、海洋炭素除去(mCDR)を実証する「プロジェクト・マコマ(Project Macoma)」の運転開始を発表した。実証拠点は米ワシントン州の港湾都市ポート・エンジェルスに設けられ、期間は2年間を予定する。同社は米国エネルギー省傘下の太平洋岸北西部国立研究所(Pacific Northwest National Laboratory=PNNL)との協力を経て、2023年から近隣のシクイム湾で実験を重ねてきた。

今回のプロジェクトは、海水を電気化学的に処理し、酸を除去してアルカリ性を高めたうえで海に戻す仕組みを採用する。これにより、海洋の酸性化を緩和しつつ、海水が大気中からCO2を吸収しやすくする「自然の緩衝作用」を模倣するものだ。マコマ計画では運転期間中に最大1,000トンのCO2除去を目指す。

この取り組みは2025年初頭、米国の水質保全制度「国家汚染物排除制度(National Pollutant Discharge Elimination System=NPDES)」の下で、初めて正式に認可を受けたmCDR事例となった。エブ・カーボンは「科学的根拠に基づく安全性の確認と、地域社会との信頼構築が鍵だ」としており、地元の先住民族や規制当局、港湾関係者と協議を重ねてきた。

ワシントン州は現在、2050年までのネットゼロ達成を掲げた包括的気候行動計画(Comprehensive Climate Action Plan=CCAP)案を策定中で、マコマ計画はその中で重点施策の一つとして位置づけられている。同州の沿岸部では酸性化の進行が深刻で、シェルフィッシュ産業(カキ・アサリなど)は年間2億7,000万ドル(約410億円)規模、3,200人以上の雇用を支える基幹産業だ。エブ・カーボンの技術は、この地域経済と生態系双方を守る手段としても注目されている。

エブ・カーボンの最高経営責任者(CEO)ベン・ターベル氏は「プロジェクト・マコマは、安全で責任ある炭素除去が地域の海洋環境を守りつつ、地球規模の気候目標を前進させる『設計図』になる」と述べた。同社は今回の実証を通じ、世界各地でのmCDRスケールアップの基盤を築く考えだ。

参考:https://www.ebbcarbon.com/post/project-macoma-launches-in-port-angeles