ワシントンで9月17日、国際的な金融・経済の有識者組織G30は、新報告書「Carbon Pricing and Markets: Enabling Efficient Emission Reductions(炭素価格と市場:効率的な排出削減を可能にする)」を公表した。報告書は、各国政府に対しカーボンプライシングを脱炭素化の主要手段として強化するよう求めるとともに、排出量取引制度(ETS)に炭素除去(CDR)のカーボンクレジットを組み込むことで、除去技術と市場への投資を促進すべきだと提言した。
報告書は、2024年に世界の平均気温が産業革命前比で1.5度を超えた現実を踏まえ、特に重工業や航空・海運など「削減困難部門」での対策が急務だと指摘した。その上で、国際協調による共通水準での炭素価格導入が理想だが、各国の足並みが揃わない場合には炭素国境調整メカニズム(CBAM)の活用が必要になるとした。さらに、炭素税やCBAMによる収益の一部を、気候変動に脆弱な低所得国への支援に充てるべきだと提案した。
G30作業部会議長でエネルギー移行委員会(Energy Transitions Commission)議長のアデア・ターナー氏は「炭素価格なしには重工業や長距離輸送部門の脱炭素は進まない。これらの産業は国際的に取引されており、コスト効率的な脱炭素のためには各国間の協調が不可欠だ」と述べた。
また、プロジェクト顧問を務めたオリバー・ワイマンのグローバル気候・サステナビリティ部門責任者ジョン・コラス氏は「排出削減に加え、炭素市場を活用して炭素除去への投資を拡大することが不可欠だ。クレジット市場の信頼性を確保し、除去解決策を効果的に拡大する枠組みが必要だ」と強調した。
報告書は企業に対し、従来の削減系カーボンクレジットから除去系カーボンクレジットへの段階的な移行を求めている。特に金融・サービス・テクノロジーといった分野が、高品質なクレジット購入を通じて除去投資を牽引すべきだと提起した。
今回の提言は、パリ協定以降の国際合意にもかかわらず削減の進展が停滞する現状を背景に、2050年のネットゼロ達成に向けて「価格メカニズムと市場整備」を両輪とする戦略を提示したものだ。