米国環境保護庁(EPA)は9月12日、米国の温室効果ガス報告制度(GHGRP)を大幅に縮小する規則案を発表した。最終決定されれば、大規模排出施設、燃料・産業ガス供給事業者、二酸化炭素(CO2)圧入サイトの報告義務が撤廃され、規制コストは最大24億ドル(約3,500億円)削減される見通しだ。
同制度は2008年度歳出法に基づき導入され、2010年以降、約8,000施設が温室効果ガス(GHG)排出量を毎年報告してきた。報告データは二酸化炭素回収・貯留(CCS)プロジェクトにおけるCO2の地中貯留量確認や、炭素除去に対する税制優遇措置「45Q税額控除」の透明性を担保する仕組みとして活用されてきた。
EPAは、GHGRPが大気浄化法の法的義務を果たす上で必須ではないとし、温室効果ガス排出データの継続的収集は不要であると判断した。ただし、インフレ抑制法により創設されたメタン排出課徴金(Waste Emissions Charge, WEC)に関する一部報告義務のみを維持する方針である。しかし、今年7月に成立した「One Big Beautiful Bill Act」によりWECの適用は2034年以降に延期されており、今後10年近く、ほとんどの排出データが収集されないことになる。
炭素回収連合(Carbon Capture Coalition, CCC)は今回の提案に強く反発している。事務局長ジェシー・ストラーク氏は「GHGRPは45Q税額控除の制度的基盤であり、その撤廃はCCS産業全体を危険にさらす」と警告した。同氏によれば、2021年以降、45Qを受ける事業者はEPAに対し、モニタリング・報告・検証(MRV)計画を提出し、GHGRPの「サブパートRR」でCO2の地中貯留量を証明することが義務付けられてきた。
CCCによると、既存および近く着工予定の炭素管理プロジェクトに対する累計投資額は推定775億ドル(約11兆3,000億円)に上り、これはEPAが見込む規制コスト削減額(24億ドル)を大きく上回る。ストラーク氏は「この報告制度は業界と政策コミュニティから幅広く支持されてきた。撤廃されれば数百件のCDR・CCS案件が危機に陥る」と述べた。
EPAは9月16日に規則案を官報に掲載し、47日間のパブリックコメントを募集する。公開15日後にはオンライン公聴会も予定されており、業界・労働団体・環境政策団体などから大規模な反対意見が寄せられる見通しだ。
今後の焦点は、炭素除去産業の制度的支柱とされてきたGHGRPが維持されるのか、あるいはトランプ政権の規制緩和方針に従い撤廃されるのかにある。最終決定は年内にも下される可能性がある。