カーボンクレジット市場のルール整備と投資家保護をめぐる論点、グローバルスタンダードとの整合と自国路線のバランス

村山 大翔

村山 大翔

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金融庁カーボンクレジット取引インフラ検討会解説シリーズ

第1回パート3

第1回会合の後半はメンバー間の自由討議へ移り、「品質・透明性をどう担保しながら国内カーボンクレジット市場を拡大するか」が主題となった。

IOSCOが求めるグローバル一体性と、日本の産業競争力を守る柔軟さの両立の難題が浮き彫りになる一方、カーボンクレジット分類の整理や評価機関のガバナンスなど、実務的課題も相次いで提示された。

グローバルスタンダードへの向き合い方

メンバーからは「厳格すぎる国際ガイドラインが需要を冷やしている」と指摘があがり、国内市場拡大のためどこまで合わせるのかの戦略的選択を提起した。

IOSCO報告書でも市場の分断とダブルカウント(二重計上)リスクを防ぐための国際的整合性を重視する立場で、グローバルで一貫性を欠けば流動性が分散すると警告している。

こうした背景から、参加者は「世界の議論に当事者として参画し、自国の事情を反映できる発信力が不可欠」と一致した。また議論の中では「国内外に乱立する基準・ガイドラインを体系的にマッピングしない限り、企業も金融機関も前に進めない」という指摘が複数あがった。

金融機関への期待と投資家保護

メンバーから、金融機関は脱炭素のイネーブラーとして期待が拡大しているが、ルールが曖昧では動けないと主張があった。IOSCOグッドプラクティスは顧客保護・利益相反管理を金融当局が優先的に検討すべき論点に挙げており 、検討会でも「金融庁の独自色」としてこの領域を深掘りする方向が確認された。

カーボンクレジットの分類・品質・評価機関

カーボンクレジットの品質については、削減系、除去系、自然由来、技術由来などの分類が曖昧なままでは買い手が動きづらいという指摘があった。また、品質を評価する側の機関の行動規範を参考にカーボンクレジット評価機関のガバナンス強化を検討すべきであるという提案が示された。

事務局も取引主体・評価機関が増える中で特性や価格情報を適切に共有する仕組みの必要性を論点に掲げている 。

需給ギャップと産業競争力

国内最大級の需要家であるENEOSは「GX-ETSへの適格クレジット量が圧倒的に不足している。質も価格も安定しなければ国内製造業の競争力を損ないかねない」と危機感を表明した。

金融側メンバーは「国内プレーヤーが安心して購入できる最低限の品質・価格指標づくりこそ急務」と応じた。東証は、標準化取引による価格シグナル整備を取引所として模索する意向を示した。

教育・リテラシー向上

またリテラシーについても、検証・認証・保証の定義が混在し、利用者・監査人に誤解が広がっているとし、公認会計士協会のシラバス策定を例示として示した。

リテラシー不足によるグリーンウォッシング批判の拡散を憂慮する声も多く、教育プログラムの継続的アップデートが議事録上の課題として明記された。

第1回会合のまとめと次ステップ

本討議で浮かんだ重点課題は、

論点具体的な課題今後の対応方向
国際整合性 vs 国内柔軟性グローバル基準との距離感グローバル基準との整合性を保ちつつ、日本独自のルールを検討
ルールの「見える化」ガイドラインの乱立事務局による体系マップの提示
投資家保護利益相反・顧客保護フレーム金融庁主導でグッドプラクティスを翻訳・導入
品質&分類技術・用途別タクソノミーマトリクス整理
評価機関ガバナンス評価機関の信頼性行動規範・監査制度の検討
需給ミスマッチ適格クレジット量と価格安定国内外創出支援と価格指標整備
教育リテラシー格差継続的教材と専門家育成

次回以降、具体的論点ごとの深掘りと優先順位付けを進めるとし、第1回の検討会は幕を閉じた。

参考:金融庁.「カーボン・クレジット取引に関する金融インフラのあり方等に係る検討会」(第1回)議事録.令和6年6月10日

参考:金融庁.「カーボン・クレジット取引に関する金融インフラのあり方等に係る検討会」(第1回)議事次第.令和6年6月7日