みずほ、三菱UFJ、三井住友、メガバンク3行のカーボンクレジット戦略と市場の課題

村山 大翔

村山 大翔

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金融庁カーボンクレジット取引インフラ検討会解説シリーズ

第1回パート2

第1回会合では、みずほ銀行・三菱UFJ銀行(MUFG)・三井住友銀行(SMBC)の担当者が自行のカーボンクレジット戦略を発表し、その後、座長が進行する質疑応答へと移った。

議論はボランタリーカーボンクレジット市場の「質と位置づけ」を巡る課題に集中し、プレゼンで示された①国際連携、②創出支援、③国内流動性、の実装上のハードルが鮮明になった。

メガバンク3行のカーボンクレジットへの取り組み

みずほ銀行「グローバル取引インフラと国内マーケットメイクの両輪」

みずほ銀行は、カーボンクレジットの取引需要が伸び悩む現状を「質への不信と位置づけの曖昧さがインセンティブを削いでいる」と指摘した。ケニアの KOKO Networks、シンガポールの Climate Impact X、ロンドン証取との連携などを例示し、「2050 年の除去系需要に備えた国際エコシステムの接続」と「東証市場での価格形成」を並走させる方針を示した。

参考:株式会社みずほフィナンシャルグループ.株式会社みずほ銀行とKOKO Networks Limitedによるカーボンクレジット分野に関する戦略的パートナーシップの構築について.2023年8月4日

参考:株式会社みずほフィナンシャルグループ.株式会社みずほフィナンシャルグループとClimate Impact Xによるパートナーシップの構築について.2023年11月28日

参考:株式会社みずほフィナンシャルグループ.〈みずほ〉とLSEGのカーボンクレジット領域における連携開始について.2024年6月3日

MUFG「顧客の「CNジャーニー」をエンドツーエンドで伴走」

MUFGは温室効果ガス(GHG)排出量可視化からカーボンオフセットまで一気通貫で支援する体制を説明。

ENGIE社との高品質カーボンクレジット仲介や森林ファンド出資、衛星データ活用など多層的ソリューションを提示した上で、「制度枠組みが定まらず購入ニーズは限定的だが、ブランド訴求目的の案件は動き始めている」と実感を共有した。質疑では「買い手が躊躇する最大要因は使途の制度不透明さ」と指摘した。

参考:株式会社三菱UFJ銀行.ENGIEとの協業について.2022年3月29日

SMBC 「上流・中流・下流をつなぐ「ハブ」戦略」

SMBCはグループの中期経営計画における脱炭素重点課題を紹介し、森林ファンド出資(上流)、Carbonplace設立メンバー参加(中流)、航空機リースへのカーボンクレジット組込(下流)という三段構えを説明。Carbonplace については「世界的に売り手は活況だが買い手は少なく、プラットフォームの使い勝手も課題」と率直に述べた。

参考:株式会社三井住友フィナンシャルグループ.カーボンクレジット取引プラットフォーム Carbonplace への参画について.2022年5月12日

混乱期をどう捉えるか

東京証券取引所は「品質基準の厳格化やSBTiの見解変更で混乱期に入ったのではないか」と問題提起。これに対し三行は次のように応答した。

  • みずほは「インセンティブ不足が根底にあり、質への疑念がレピュテーションリスクとして顧客を萎縮させている」と説明。
  • MUFGは「制度目的が不明確なため何のために買うのかが定まらず需要が限定的。しかしエンドユーザー価値が明確な商品連動型の案件は動き始めた」と補足した。その上で「質を担保できるパートナー経由でレピュテーションリスクを下げることが当面の鍵」と強調した。
  • SMBCは「買い手不足は世界共通で、特に日本ではフレームワークがないことが障壁。ICVCMVCMIが進める品質標準がマーケット拡大の後押しになる」と述べ、Carbonplaceの現状を「売り手主導で盛り上がっている段階」と総括した。

座長は最後に「品質担保と投資家保護を両立させる国内ルールの具体像こそ、本検討会の次の論点だ」と締めくくった。

まとめ

プレゼンと質疑から浮かび上がる論点は三つ、

その上でで三行は、それぞれの得意分野から「取引インフラ」「顧客伴走」「プロダクト連動」を進化させ、市場黎明期を「実践の場」として活用し始めている。

参考:金融庁.「カーボン・クレジット取引に関する金融インフラのあり方等に係る検討会」(第1回)議事録.令和6年6月10日

参考:金融庁.「カーボン・クレジット取引に関する金融インフラのあり方等に係る検討会」(第1回)議事次第.令和6年6月7日