CO2回収・貯留が転換点を迎える、2030年に向けた急成長の予測と課題

村山 大翔

村山 大翔

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カーボンニュートラル実現に向け、炭素回収・貯留(CCS:Carbon Capture and Storage)技術への注目が高まっています。DNVの最新レポート「Energy Transition Outlook 2024」によると、世界のCCS能力は2030年までに4倍に拡大すると予測されており、北米や欧州を中心に新たな投資と実装が進行しています。

本コラムでは、CCS分野の成長動向と、技術・政策・市場が交差する中での課題について整理します。

CCS拡大の背景と現状

  • 2030年までにCCSの年間能力が現在の約4倍に成長
  • 主に天然ガス処理分野での利用が先行、今後は製鉄・セメント業界への拡大が期待される
  • 現在の回収量は年4,100万トン。2050年には13億トンへと増加見込み
  • CCSに対する投資額は今後5年間で800億ドルに到達見通し

CCSとは何か、その意義と技術基盤

CCSは、発生した二酸化炭素を大気中に排出せず、地中深くに封じ込める技術です。産業起源のCO2排出を物理的に削減できる数少ない手段の一つであり、特に「電化困難産業(hard-to-abate sectors)」においては、脱炭素化の最後の砦とされています。

DNVの見通しでは、2050年時点で製鉄やセメント産業がCCSによる回収CO2の41%を占めるとされており、これらの分野での適用拡大が鍵となります。

加速するCCS展開と地域差

欧州のリードと北米の現実

欧州では政策支援の手厚さにより、CCSプロジェクトが加速しています。例えばEU域内では、EU排出権取引制度(EU-ETS)により炭素価格が高く保たれており、CCSへのインセンティブが働きやすい状況です。一方、米国は補助金・税控除による支援は進んでいるものの、規制の不確実性や政治的変動が障害となっています。

投資環境の改善と課題

DNVによれば、エネルギー転換に必要なCCS投資は、依然として太陽光・風力投資に比べて極めて小さく、2023年の再エネ投資1年分にも満たない水準です。市場メカニズムだけでは不十分であり、「カーボンプライシング」や政府主導の長期契約が必要不可欠です。

CDR(炭素除去技術)との連携と今後の論点

CCSは排出削減技術ですが、炭素除去(CDR)技術と連携することで、ネガティブエミッションの実現が可能になります。

  • BECCS(バイオマス燃焼+CCS):コスト優位性が高く、CDRの主力となる見通し
  • DACCS(直接空気回収+CCS):コストは高い($350/トン)が、ボランタリーカーボンクレジット市場に支えられて拡大が期待される

DNVは、CDR全体で年間3.3億トンのCO2除去が2050年に必要と予測しており、そのうちDACは8,400万トンを占めるとしています。

まとめ

本コラムでは、CCSが2030年に向けて大きな転換点を迎えつつあること、そして技術的可能性と政策支援の両輪で進展する必要があることを示しました。2040年代には、海運業界でも船上CCSの採用が始まると予測されており、CCSの応用範囲はますます広がります。

ただし、2050年に必要な回収量の6分の1しか現状では見込めていない点を踏まえると、さらなる規模拡大と国際協調が不可欠です。カーボンクレジットの観点からも、CCSの進展は排出削減と同様に、除去手段としての価値を持つ重要な基盤技術です。

参考:https://www.dnv.com/energy-transition-outlook/