デンマーク政府は8月26日、二酸化炭素(CO2)回収・貯留(CCS)を対象とした国家補助金事業の第一次入札を締め切り、入札資格を持つ10社のうち8社が応札したと発表した。総額2,870億デンマーククローネ(約4,100億円)の基金は、今後20年間にわたりCO2削減を促進する世界有数の規模であり、欧州における炭素除去(CDR)政策の先駆的事例となる。
デンマーク・エネルギー庁の副局長ピーター・クリスチャン・バゲスゴー・ハンセン氏は「1トンのCO2を除去するごとに、デンマークの気候負荷は軽減される。関心の高さは心強いが、最終的な拘束力ある入札までにはまだ道のりがある」と述べた。
今年5月の事前審査で、セメント工場1社、バイオマス熱電併給プラント2社、ごみ発電事業者7社が入札資格を得た。今回応札した8社には、アールボー・ポートランド、エネルニスト、ホーフォア(HOFOR)など国内主要事業者が含まれる。
一方、洋上風力大手オーステッド(Ørsted)は、米国での6億7,900万ドル(約1,000億円)の事業中止を受け、経営資源を本業に集中するため入札を辞退した。ただし、同社は既に第1回CCUSファンド契約を獲得しており、2026年から年間43万トンのCO₂を20年間貯留する計画は継続する。
基金は2029年から2044年まで毎年17億7,000万クローネ(約257億円)を拠出する。対象となるのは、2029年末までに捕集設備を稼働させ、2030年から本格的な貯留を開始できる事業である。早期稼働には追加補助も設定されている。
捕集はデンマーク国内で行うことが義務付けられるが、貯留先は国内外の地中に限定されない。補助金は貯留が実証されたCO2量に応じて支給される。また、基金はCO2再利用(CCU)も支援対象に含め、将来的なCO2由来産業の基盤整備を狙う。契約は柔軟性を持ち、CCUがより有利となった場合の事業転換も認められている。
最終入札の締め切りは12月17日で、契約締結は2026年4月を予定する。実施には欧州委員会の国家補助承認が必要となる。これは、2026年から2032年にかけて16万350トンのバイオ起源CO2を貯留する契約を結んだNECCSコンソーシアムなど、過去の補助金事業に続く第3弾となる。
背景には、CCS単体では依然として十分な経済的誘因が欠けるという現実がある。デンマーク議会は2023年に、複数の基金を統合し、長期的かつ一貫性ある支援スキームに再編した。産業界からは「大規模投資の準備時間を確保できる」として歓迎の声があがっている。
デンマークは早期から巨額の補助を通じて炭素貯留市場の先陣を切る構えだ。複数の契約が成立すれば、既存のエネルギー企業だけでなく新規参入者にとっても市場拡大の機会となる。最終的に、この取り組みは欧州のCCS実装競争でデンマークをリーダー的地位に押し上げる可能性がある。
参考:https://ens.dk/en/press/danish-tender-co2-capture-and-storage-enters-next-phase