出光、米CDRスタートアップCREW Carbonに出資 ネガティブエミッション戦略を本格化、CCSと両輪へ

カーボンクレジット.jp 編集部

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出光興産は2026年5月15日、出光CVCを通じて米CDRスタートアップのクルー・カーボン(CREW Carbon)に出資したと発表した。同社はWAE(排水アルカリ度増強)と呼ばれる手法で世界初となるカーボンクレジットを創出した企業であり、2025年5月にアイソメトリック(Isometric)認証下でフロンティア(Frontier)向けに発行した実績を持つ。

出光のCDR分野での個別企業出資は本件で3例目となり、ファンド・MRVインフラ・個別技術への階層的アクセスを揃えた格好となる。同社のネガティブエミッション戦略がポートフォリオ構築段階から実装段階へ移行しつつあることを示す動きである。

CREW社のWAE技術と商用化実績

CREW社は下水処理プラントを主なターゲットとするCDRソリューション提供企業である。排水中の有機物が微生物に分解される際に発生するCO2を、石灰石(炭酸カルシウム)と反応させて重炭酸イオン(HCO3−)に変換し、河川経由で海洋に放流する。海洋では数千年以上にわたり安定的に固定化されるとされる。

技術上の差別化点は、追加設備が炭酸カルシウムの貯蔵・注入設備とモニタリング設備に限定され、既存処理プラントへの後付けが可能な点にある。pH調整剤を石灰石に置き換えることで処理コスト自体も低減できるとされ、インフラ投資負担の軽さと正味削減量のMRV精度を両立させた点が買い手の支持を集めている。

クレジットの既存買い手には、フロンティア経由でJPモルガン、グーグル、オートデスク、ストライプといった高品質CDR需要を牽引するプレーヤーが名を連ねる。WAEは海洋アルカリ度強化(OAE)の派生に位置づけられるが、排水処理プラントを介在させることで陸上既存インフラの活用と恒久固定化を両立した点に独自性がある。

シリーズA調達と投資家構成

CREW社の今次調達はオーバーサブスクライブとなったシリーズAで、エクイティ1,900万ドル(約30億円)と助成金等の非希薄化資金600万ドル(約10億円)を合わせた総額2,500万ドル(約40億円)の規模となった。リードはバーントアイランド・ベンチャーズ(Burnt Island Ventures)が務め、AP Ventures、ソニー・イノベーション・ファンド(Sony Innovation Fund)、ビルダーズ・ビジョン(Builders Vision)、キボ・インベスト(Kibo Invest)、ニューヨーク・ベンチャーズ(New York Ventures)、ファミリーオフィスが参加。既存投資家ではカウンターアクト(Counteract)等が継続出資した。

バーントアイランド・ベンチャーズのトム・ファーガソン(Tom Ferguson)パートナーは、CREW社の精密な永続的炭素除去計測がクレジット市場で差別化要因となっていると指摘している。一方で、CDRクレジット市場全体では除去手法ごとの永続性評価や追加性の解釈に依然として論争があり、WAEの位置づけが今後の方法論議論で問われる可能性は残る。

出光のネガティブエミッション戦略の段階的体系化

出光のCDR領域への取り組みは、過去13カ月間で明確な段階を踏んで展開されてきた。

2025年4月、スイス拠点のカーボンリムーバル・パートナーズ(Carbon Removal Partners)が運用するCDR特化型ファンドに出資し、CDR分野全体への面的アクセスを確保した。これは出光アメリカズホールディングス経由で実行された投資である。

2025年12月には、同ファンドとの共同出資として、ドイツ・フライブルク拠点のカーボンフューチャー(Carbonfuture)に出資した。同社は耐久性の高いCDR向けのデジタルMRVプラットフォームを提供しており、出光はクレジット創出の信頼性基盤を内製化する道筋を確保した。

そして本件CREW社出資により、個別CDR手法、特に低コストかつ既存インフラ活用型の技術に直接アクセスする経路が加わった。ファンド(CRP社)→ MRV(カーボンフューチャー)→ 個別技術(CREW社)という3層構造が完成しつつある。

CCS事業との分業構造

出光は中期経営計画(2023〜2025年度)で2030年までにScope 1とScope 2の排出量を2013年度比46%削減する目標を掲げている。この実現に向けた排出削減の主軸は、JAPEX・北海道電力との共同で進める苫小牧エリアのCCS事業である。同プロジェクトでは出光の北海道製油所からのCO2分離・回収を含め、2030年時点で年間150万〜200万トン規模のCO2貯留開始を目指す。

ただし、CCSは産業排出源からの排出回避に位置づけられる技術であり、大気中のCO2を除去するCDRとは性質が異なる。出光の戦略を整理すると、国内・自社排出源由来のCO2には苫小牧CCSで対応し、ネガティブエミッション領域はCDRスタートアップへの出資を通じて知見・クレジット調達経路を確保するという分業構造が見える。

CREW社の技術は、日本国内展開の余地もある。出光プレスリリースは、日本が石灰石の有数の生産地である点を挙げ、国産資源活用型CDRとしての展開検討に言及している。下水処理は自治体・公営事業体が運営主体となるため、事業化には公的セクターとの連携設計が要となる。

過去13カ月で出光が積み上げたファンド・MRV・個別技術の3層出資は、日系大手のCDR領域参入として最も体系化された戦略の一つと評価できる。特に、自社排出源にCCS、ネガティブエミッション領域にCDRという分業を明確に切り分け、苫小牧での実事業と海外スタートアップ出資を並走させる姿勢は、戦略の整合性が高い。

残された論点は出資から事業実装への踏み込み、すなわち国内WAE展開に向けた下水処理事業者との連携設計と、CREW社方法論の日本適用時の追加性・MRV検証である。出光のCDR戦略は次の段階で「出資ポートフォリオの保有」から「日本市場での事業創出」への質的転換を迫られる。

参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000652.000023740.html