はじめに
近年、地球温暖化の進行と気候変動問題への関心が高まる中、カーボンフットプリント(CFP)は重要な指標として注目されています。CFPとは、製品やサービスが生産から廃棄に至るまでのライフサイクル全体でどれだけの温室効果ガス(GHG)を排出しているかを量的に表したものです。この指標を通じて、企業は自らの環境への影響を把握し、減少させるための具体的なアクションを計画することができます。
本記事では、CFPの算定方法について、その基礎から応用まで詳しく解説していきます。環境保全への一歩として、CFPの正確な理解と計算方法の習得は不可欠です。
カーボンフットプリントの基礎知識
カーボンフットプリントの概念を深く理解するためには、まず温室効果ガス(GHG)排出と地球環境に与える影響についての基本的な知識が必要です。GHG排出は、化石燃料の燃焼、工業プロセス、農業活動などの活動によって引き起こされます。これらのガスは地球の大気中にとどまり、地球温暖化の主な原因となっています。
カーボンフットプリントは、特定の製品やサービスによって発生するGHG排出量を量的に表すものです。これには、原材料の採掘から製品の製造、輸送、使用、最終的な廃棄に至るまでのプロセスが含まれます。カーボンフットプリントの計算には、二酸化炭素(CO2)のみならず、メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)などのGHGを考慮に入れます。
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算定方法の詳細
カーボンフットプリントを算定の基本は、直接排出(スコープ1)、間接排出(スコープ2)、およびその他の間接排出(スコープ3)に関連する排出量を計算することから成り立っています。
・スコープ1は、企業や組織が直接管理下にある設備や車両から発生する排出を指します。例えば、工場の機械を動かす燃料使用からの排出や、車両の燃料使用による排出などがこれに該当します。
・スコープ2は、企業が間接的に使用する電力、熱、蒸気などから発生する排出量を指し、これは電力会社など外部のサービス提供者が直接的な排出源となります。
・スコープ3は、企業の活動に関連するが、企業が直接管理していない排出のことを指します。これには、原材料の調達、製品の使用、従業員の通勤、廃棄物の処理など、サプライチェーン全体を通じた排出が含まれます。
各スコープの排出量を正確に計算するためには、活動データ(例:燃料の消費量、電力使用量など)と排出係数(特定の活動によって排出されるGHGの量を示す係数)を組み合わせる必要があります。次のセクションでは、この計算プロセスを実際にどのように行うか、ステップバイステップで解説していきます。
実際の算定手順
1.目的と範囲の設定
CFP算定の最初のステップは、取り組むCFPの目的(Why)、対象製品(What)、算定方法(How)の大枠を決めることです。
目的を明確にすることで、算定に必要な作業の程度が決まり、対象製品の選定や算定方法の検討に繋がります。
対象製品は算定目的を達成できるものを選び、適切な参照規格や基本方針を決定します。この段階での検討は、後の算定プロセス全体の方向性を決定づけるため、非常に重要です。
2.データ収集
算定のためのデータ収集には、対象製品のライフサイクル全体を見据えたデータが必要になります。これには原材料の調達、製造、使用、廃棄までの各段階で発生する直接的および間接的な温室効果ガス(GHG)排出量に関するデータが含まれます。
データ収集は、CFP算定の精度を大きく左右するため、可能な限り正確かつ包括的なデータを集めることが求められます。
3.排出係数の適用
集めた活動量データ(例:燃料の消費量、電力使用量)に対して、適切な排出係数を適用してGHG排出量を算出します。
排出係数は、特定の活動によって排出されるGHGの量を示す係数であり、活動量と排出係数を掛け合わせることで、各活動におけるGHG排出量を計算します。
4.集計と分析
各活動で算出されたGHG排出量を集計し、全体のカーボンフットプリントを算定します。
この過程で、排出の主な源泉や削減可能性が高い領域を特定することができ、CFP削減のための戦略立案に役立てることができます。
5.報告と検証
算定結果は報告書としてまとめられ、必要に応じて第三者による検証を受けることがあります。これにより、算定の正確性と透明性が確保され、信頼性の高いCFP情報が提供されます。
以上の手順を踏むことで、カーボンフットプリントの算定が行われます。各ステップでの正確な作業が、CFP算定の信頼性を高め、有効な環境保全策の策定に繋がります。
算定ツールの用意・データの入力
カーボンフットプリント(CFP)の算定において、アプリケーションや表計算ソフトを使った算定シートなどのツールの準備は欠かせません。これらのツールは、算定手順書で定められたプロセスごとの活動量と排出係数の具体的な数値を入力し、CFPを計算するために使用されます。特に、エクセル等の表計算ソフトでの算定シート作成は一般的であり、以下のような手順で行われます。
1.横軸の設定:横軸にはプロセス、活動量、排出係数、GHG排出量の順に記載します。
2.プロセスの記載:算定手順書に記載されている全てのプロセスをプロセス欄に記載します。
3.排出係数の記載:排出係数の出典、データ項目名、単位を確認し、それに応じて記載していきます。
4.活動量の単位の記載:排出係数の単位に合わせて、活動量の単位を記載します。データの出典も、社内データであればデータベース名や部署名などを明記します。
5.計算式の入力:「活動量×排出係数=GHG排出量」となるように計算式を入力し、プロセスごとのGHG排出量を算出できるようにします。使用するデータベースがCO2量に既に換算された数値を提供している場合は、換算の必要がありません。そうでない場合は、このステップで換算する必要があります。
6.データの入力:収集したデータを入力し、GHG排出量を算出します。
このプロセスにより、算定ツールはCFPの算定、算定過程の保存、および検証時の利用に役立ちます。また、原材料の構成比や排出係数データベースの情報などが含まれるため、公表に際してはデータベースのライセンスの範囲を確認し、公表範囲を慎重に検討する必要があります。
削減対策の実施に向けて
カーボンフットプリント(CFP)に取り組むことで、製品ごとの温室効果ガス(GHG)排出量を包括的かつ詳細に把握することが可能になります。これにより、排出の大きな源泉を定量的に特定し、削減対策の検討と推進が効率的に行えます。さらに、削減が進んだ際には、その効果を消費者や顧客に訴求することも可能となります。
CFPの削減対策の検討には、以下のようなステップがあります
1.削減目標の設定:CFP削減の目標値と目標期間を設定します。目標時期は、一般的に全社のGHG削減目標が設定される2030年や、削減対策の成果を訴求するための2~3年後が適切です。長期目標として2050年のカーボンニュートラルも考慮に入れると良いでしょう。
2.削減対策の検討:全社や事業のGHG削減対策をプロセスごとに棚卸し、対象製品に関わる対策を特定します。その上で、追加で削減が必要なGHG量を把握します。
3.追加対策候補のリストアップ:残るGHG排出量の多いプロセスから順に、削減対策をリストアップします。この段階では、対策の評価はせず、幅広く削減アイデアを列記します。
4.追加対策候補の優先度判定:候補となる追加対策を、削減可能なGHG量と実現可能性(フィージビリティ)の2軸で評価し、対策の優先順位を決定します。
5.ロードマップの策定:優先順位が高い対策について、その取り組みに関する検討のロードマップを策定します。
これらのステップを通じて、CFP削減に向けた具体的なアクションプランが形成されます。対策の実施には、企業全体の協力と、関係者との連携が不可欠です。また、削減対策の進行状況に応じて、定期的な見直しと更新が必要になるでしょう。
まとめ
カーボンフットプリント(CFP)の算定は、企業や製品の温室効果ガス(GHG)排出量を定量化し、その環境への影響を理解するための重要な手段です。このプロセスを通じて、排出の主要な源泉を特定し、効果的な削減戦略を策定することが可能となります。また、CFP算定の結果は、ステークホルダーへの透明性の向上、環境保全へのコミットメントの示し方、および製品の市場競争力の強化に寄与します。
CFP算定には、目的と範囲の明確化、データ収集、排出係数の適用、集計と分析、そして報告と検証というステップが含まれます。また、算定には専門的なツールやソフトウェアが使用され、精度と信頼性の高い結果の確保が求められます。
CFP削減対策の検討と実施は、環境負荷の低減だけでなく、企業の社会的責任(CSR)活動の一環としても重要です。これにより、企業は持続可能な社会の実現に向けた積極的な役割を果たすことができます。
最終的に、CFP算定と削減対策の取り組みは、環境への意識を高め、持続可能な未来への貢献を目指す企業や個人にとって、不可欠なプロセスであると言えます。この取り組みを通じて、地球環境への影響を理解し、それに基づいて行動することが、今日の社会においてますます重要となっています。
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CFPってなに?カーボンフットプリントとは?といった基礎から丁寧にサポートします。
1製品からの算定が可能であり、算定手順書の作成にも対応しています。
初めに1製品からスタートし、そのノウハウを活かして他の製品の算定は自走することができます。
そのため費用を最小限に抑えつつ、CFPの活用ができます。
参考
環境省、サプライチェーン排出量算定の考え方
環境省・経済産業省、カーボンフットプリント ガイドライン(別冊)CFP 実践ガイド