EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)を基礎から分かりやすく解説

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はじめに

はじめに、EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)は、欧州グリーン・ディールの実現を目指す気候変動対策の一環として提案されました。2021年7月に欧州委員会により発表され、その後、2023年4月にEU理事会と欧州議会によって正式に採択されたCBAM規則は、2023年5月17日に施行されました。本格適用の開始は2026年とされており、その前段階として2023年10月1日から対象事業者に報告義務が課される移行期間が設けられました。

EUへのビジネス展開を考える企業にとって、この新しい規制の理解と適切な対応策の検討は極めて重要です​​。

EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)の概要

CBAM規則の背景

欧州委員会は2021年7月、欧州グリーン・ディールの実現に向けた気候変動対策の一環として、炭素国境調整メカニズム(CBAM)の規則案を発表しました。この規則は、2030年までに1990年比で55%以上の温室効果ガス排出量削減を目標とする「Fit for 55」政策パッケージの一部です。2023年4月にEU理事会と欧州議会によって正式に採択され、同年5月17日に施行されました。CBAMは、2023年10月から2025年末までの移行期間を経て、2026年1月から本格運用が開始されます。

この制度は、EU内で生産される対象製品に課される炭素価格に対応した価格を、域外から輸入される対象製品にも課すものです。これにより、EU域外の国々も炭素排出削減に向けた技術の利用を促されることが期待されています。

CBAMとEU排出量取引制度(EU ETS)との関係

EU ETSでは、特にカーボンリーケージのリスクが高いセクターに対して排出枠の無償割当を行ってきましたが、「Fit for 55」により、これらの無償割当を段階的に削減し、CBAMを導入することでカーボンリーケージのリスクを低減する方針が示されました。2025年までは無償割当が維持されますが、2026年から削減が開始され、2034年には完全に廃止され、CBAMに完全に移行します。

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CBAM制度の概要

CBAMは、EUの国際的な義務に準拠するよう設計されており、当初はカーボンリーケージのリスクが高い一部の製品のみが対象となります。EU域内の事業者は、域外から輸入された対象製品の体化排出量に基づいて、CBAM証書を購入し納付することにより、炭素価格に相当する賦課金を支払います。この制度は2023年10月からの移行期間を経て、2026年1月から本格的に適用されます。移行期間中は、事業者は体化排出量の報告のみが義務付けられ、金銭的な負担は発生しません。

CBAM規則の適用範囲

CBAMの適用対象となる事業者は、EU域内で対象製品を輸入する事業者です。これらの事業者は、対象製品の輸入前に認可CBAM申告者としての認可を受ける必要があります。また、CBAM規則の適用はEU域外の全ての国から輸入される対象製品に適用されますが、特定の条件を満たす国や領土からの輸入品は適用除外となります。

対象となるセクターや製品は、セメント、肥料、鉄鋼、アルミニウム、水素、電力となっています。

移行期間と今後のスケジュール

移行期間は2023年10月から2025年末までで、この期間中は輸入事業者は体化排出量などの情報を報告する義務がありますが、CBAM証書の購入は必要ありません。

2025年末までに、欧州委員会はCBAM規則の適用範囲の見直しを行い、改正案や影響評価を提示する可能性があります。2026年1月からはCBAM規則の本格適用が開始され、2034年にはEU ETSの無償割当が全廃され、CBAMに完全に移行します。

CBAM対応の実務:本格適用後の対象事業者の手続きと義務

認可申告者の申請と認可

EU域内に設立された輸入事業者は、対象製品をEU域内に輸入する前に「認可申告者」としての申請が必要です。申請には事業者の基本情報、EORI番号、主な経済活動、税務当局からの証明書、過去5年間の違反歴、財務と運営能力の証明、推定の輸入額と輸入量などの情報が必要です。申請が承認されると、認可申告者はCBAM口座番号を受け取り、CBAM登録簿にアクセスできるようになります。この登録は、加盟国の管轄当局と税関当局がアクセス可能な電子データベースで行われます​​。

EU域外の事業者・施設の登録

EU域外の事業者も、CBAM登録簿に自社および施設の情報を登録することが可能です。登録することで、体化排出量の検証情報を認可申告者に提供できるようになり、認可申告者はこれらの情報を使用して体化排出量の検証が可能になります。登録は5年間有効で、事業者は製品の種類別に体化排出量を決定し、認定検証者による検証を受け、検証報告書と算出に必要な情報を4年間保管する必要があります​​。

CBAM申告書の提出

認可申告者は、CBAM登録簿を通じてCBAM申告書を提出します。申告書には輸入した製品の種類別総量、体化排出量の総量、納付するCBAM証書の総数などが含まれます。申告書は毎年5月31日までに提出する必要があり、最初の申告書は2027年5月31日までに提出されます​​。

体化排出量の算出

体化排出量の算出には、実際の排出量に基づく方法と、適切に算出できない場合に限り使用されるデフォルト値を使用する方法があります。セメントと肥料の製品については、間接体化排出量も算出する必要があります​​。
これらの手続きを適切に行うことで、EU域内での輸入事業者はCBAMの要件を満たし、適切に管理することが可能になります。対象事業者はこれらの義務を理解し、適切な準備と対応を行うことが重要です。

日本企業への影響と対応

日本企業への影響

CBAMの適用範囲は初期段階でセメント、肥料、鉄鋼、アルミニウム、電力、水素が含まれますが、EUへの輸出が主に近隣諸国に限られる電力と水素を除き、日本からEUへの輸出量が少ないため、これらのセクターからの直接的な影響は限定的です。しかし、鉄鋼製の川下製品などで移行期間中に報告が必要となり、生産者側と輸入側双方に労力が必要とされています。さらに、今後CBAMの適用範囲が拡大し、有機化学品やポリマーが対象になると、EU向け輸出量が多い日本企業に大きな影響が出る可能性があります。また、CBAMによってEU向けだった製品が日本市場に流入し、競争が激化する可能性もあります​​。

対応と準備

1.EU域内で輸入業務に関わる企業
対象製品が自社の輸入品に該当するかを確認し、CBAM規則の動向を注視する。社内でのCBAM対応責任を明確にし、グループ企業間で集中的に担当することも検討する。域外サプライヤーとの契約内容をCBAMに関する情報取得の観点から見直す。外部検証者を確保し、CBAMに準拠した報告システムを構築する。本格導入に伴うコスト影響を事前に算定し、サプライチェーンや調達戦略を見直す場合がある。

2.EU域外の生産者
自社製品がCBAMの対象製品に該当するかを確認し、対象製品の適用範囲拡大などCBAM規制の動向を注視する。EU域内の輸入業者から排出量データの提供を求められるため、適切なモニタリングを導入することを検討する。原産国での炭素価格の支払いがCBAMでの控除の対象となるかを確認し、必要な裏付け文書を確保する。CBAM登録簿にEU域外の生産施設を登録できるため、登録を検討する​​。

日本企業はCBAMによる直接的、間接的な影響を把握し、適切な対応策を準備する必要があります。これには、EU域内での輸入業務に関わる企業の対応やEU域外の生産者の準備が含まれます。対象製品の適用範囲拡大や手続きの詳細の変更に迅速に対応することが重要です。

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今後の展望と対応の重要性

CBAM規則の適用範囲の拡大

欧州委員会は、移行期間を通じてCBAM規則の適用範囲を拡大することを検討しています。2024年末および移行期間が終了する2025年末までに、報告書を欧州議会とEU理事会に提出し、報告書の結論に基づいて必要な場合には影響評価とCBAM規則の改正案を提示する予定です。この見直しにより、以下のような適用範囲の拡大が予想されます:

・カーボンリーケージのリスクのある対象製品の拡大: 有機化学品とポリマー(プラスチック)など、カーボンリーケージのリスクがあると考えられる製品が新たに対象に加えられる可能性があります。これらの製品は、欧州議会が当初からCBAMの対象に加えるよう求めていたものです。

・対象製品の川下製品への拡大: CBAM規則の対象製品に含まれていなかった鉄鋼のボルトやナット、ねじなどの川下製品が最終的に加えられる可能性があります。これにより、CBAMの適用範囲はさらに広がります。

・間接体化排出量を含める対象製品の拡大: 現在、鉄鋼、アルミニウム、水素では間接体化排出量がCBAMの対象外ですが、見直しによりこれらのセクターも間接体化排出量が含まれるようになる可能性があります。

・対象製品の輸送および輸送サービスにおける体化排出量への拡大: 輸送および輸送サービスに関連する体化排出量もCBAMの適用範囲に含まれるようになる可能性があります​​。

これらの拡大は、CBAMがEU域内での生産コストの競争上の不利を解消し、カーボンリーケージを防ぐことを目的としています。しかし、適用範囲の拡大は、EU域外の国々、特に開発途上国やその産業界に新たな課題をもたらす可能性があります。これにより、世界中の企業や産業が炭素排出を削減し、持続可能な生産方法への移行を加速させる必要が出てきます。

対応の重要性

CBAM規則の適用範囲が拡大することにより、EU域外の国々、特に日本企業は、新たな市場環境に適応するための対策を講じる必要があります。これには、製品の体化排出量の削減、輸出製品の再評価、サプライチェーンの見直し、新たなビジネスモデルへの移行などが含まれます。また、CBAMに関連する法的および規制上の要件に対応するための準備も必要となります。EUとの貿易関係において競争力を維持し、持続可能な成長を実現するためには、CBAMに対する理解を深め、適切な対応策を講じることが重要です。

まとめ

EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)に関するこの概要は、日本企業が今後直面する可能性のある新たな貿易環境についての理解を深めるための重要な情報源です。CBAMは、EUがカーボンニュートラルを目指す中で導入される政策の一環であり、特定の製品に対する炭素排出のコストを域外の生産者にも適用することで、グローバルなレベルでの環境負荷の低減を促進します。

この文書では、CBAMの基本的な概念、適用範囲、対象事業者の手続きと義務について詳しく説明されています。また、CBAMが日本企業に与える影響と、これに対処するための具体的な対策についても言及しています。特に、EU域外の生産者やEU域内で輸入業務に関わる企業は、CBAM規則の変更に対応するための準備を進める必要があります。これには、製品の体化排出量の把握、報告システムの構築、サプライチェーンの見直しなどが含まれます。

今後、CBAMの適用範囲が拡大される可能性が高く、特に有機化学品やポリマーなどの新たな製品が対象に加えられることにより、日本企業の貿易環境はさらに変化することが予想されます。このため、日本企業はCBAMの動向を注視し、適切な対応策を講じることが重要です。

総じて、CBAMはグローバルな環境保護の取り組みの中で重要な役割を果たすとともに、国際貿易における新たな課題を提示しています。日本企業は、これらの課題に柔軟に対応し、持続可能なビジネスモデルへの移行を加速させることが求められています。

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